🎼『アメイジンググレイス』は キリスト教の讃美歌
世界中で有名なこの曲は、
既に200年以上もの間にわたって、歌い継がれてきました。
この曲を聴いていると、
自然に、厳かで神聖な気持ちになります。
元々は、『われをもすくいし(我をも救いし)』という題名のキリスト教の讃美歌で、
※「くすしき恵み」と掲載されている場合もあります。
後に、『アメイジンググレイス』の名で広がっていきました。
数ある讃美歌の中でも『アメイジンググレイス』は、宗教の枠を超えて、
世界中の人々の心に深く浸透してきました。
当教室の、歌のクラス、またピアノのクラスでもレッスンしています。
讃美歌『アメイジンググレイス』が、
生まれた背景を知り、
演奏の表現力を高めるために、活かしましょう。
🎼「アメイジンググレイス」を日本語にすると
曲名「アメイジンググレイス(Amazing grace)」
を日本語にすると、次のようになります。
『アメイジンググレイス』の讃美歌名
『われをもすくいし(我をも救いし)』から、
作者が【神様に救っていただいた】
と感じた何らかの出来事があったことがうかがえます。
そして、その出来事から、
【神様に救っていただいた】のは、【驚くほどすごいこと】だと感動し、
その感動が、深い感謝の気持ちとなって、
讃美歌『アメイジンググレイス(Amazing grace)』を生んだ、と考えられます。
200年以上もの間にわたって、
歌い継がれる曲を生むことになった、
作者の【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】とは、
いったい何だったのでしょうか。
🎼『アメイジンググレイス』の歌詞&意味
まず、英語の原詩の日本語訳を読んで、
意味を確認します。
歌詞は、題名と同じ「Amazing grace」から始まります。
Amazing grace
how sweet the sound
that saved a wretch like me
驚くばかりの神の恵み
何と美しい響きであろうか
私のような者まで救ってくださった
✟自分に対して神の恵みが施されたことに感動しています。
I once was lost
but now am found
Was blind but now I see
道を踏み外しさまよっていた私を
神は救いあげてくださり
今まで見えなかった神の恵みを
今は見出すことができる
✟人としての間違った行いがあったことがうかがえます。
そして、神に救われたことにより、
改心した様子がわかります。
Twas grace that taught
my heart to fear
and grace my fears relieved
神の恵みこそが
私の恐れる心を諭し
その恐れから
心を解き放つ
✟人は、恐れる心から、間違いをおかしてしまうのですね。
How precious did
that grace appear
The hour I first believed
信じることを始めたその時の
神の恵みの何と尊いことか
✟人として正しく生きていこう、
と心改めることができたことに感動しています。
※長いので、途中省略して、最後の部分を読みます。
When we’ve been there
ten thousand years
Bright shining as tha san
何万年経とうとも
太陽のように光り輝き続ける
✟神を信じることで、いつまでも
強く生きていくことが出来ると信じています。
We’ve no less days
to sing God’s praise
Than when we’d first begun
そして、最初に歌い始めたとき以上に
神を褒め称える歌を歌うだろう
✟生涯、神を信じることを心に誓っています。
✟歌詞に
「今まで見えなかった神の恵み」
と書かれているように、
信仰心のなさから、間違った行いをしていた作者でしたが、
【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】を経験し、
人生観が180度変わったときの幸福な想いを、心の高揚感と驚嘆をもって、
書いています。
🎼『アメイジンググレイス』作者について
作詞者は、
ジョン=ニュートン(1725-1807年 英)で、
一般的には、あまり知られていないかもしれません。
歌詞を読んだだけでは、
ジョン=ニュートンの人生に起こった
【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】は、
いったいどんな出来事だったのか、何もわかりません。
200年以上も前に書かれ、世界中に広がり、
今もなお、歌い、聴く人々の心に、
愛と感動を届け続けているこの曲を、歌やピアノで表現するためには、
この曲が、
生まれることとなった出来事を知ることは、
とても大切なことです。
作詞者、ジョン=ニュートンの人生をたどっていきましょう。
※『アメイジンググレイス』の作曲者は、わかっていません。
🎼作詞者:ジョン=ニュートンの人生
🎹【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】が起こる前まで
※ここでは、時系列で簡単な内容のみ書きます。
🎹【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】を受ける
1748年、
23歳になっていたジョン=ニュートンの元に、
19歳で軍艦に強制連行されて依頼、
ジョンの身を案じていた父からの迎えの船、
グレイハウンド号がやってきます。
ジョンは、仕事にやりがいを感じるようになっていましたが、迷った末に、
故郷イギリスへ帰ることを決めました。
グレイハウンド号に乗り、
イギリスへ向けて6か月間の航海が始まりました。
この頃のジョンは、
幼少の頃から続く長い海の上での生活、
貿易船での荒々しい仕事のために、
心がすさんでいました。
歌詞にも、「私のような者」
「道を踏み外しさまよっていた私」と書かれています。
さて、出航してから2か月余り、
イギリスまでは、まだあと4か月もかかる頃のことです。
嵐が起こり、グレイハウンド号は転覆の危機に遭遇します。
今にも沈みそうな船で、必死に舵を取り、
流れ込んでくる海水を手作業でかき出し続けます。
ジョンは、嵐に遭遇し、死を意識して初めて、
存在を信じていなかった神に救いを求めました。
ですが、今までの人生が思い起こされ、
《助かるはずはない》と思いました。
《私は、何と罪深い人間だったのだろう。神は、きっとお許しにならないだろう。》
悔恨の念にさいなまれましたが、もう手遅れだろうと考えたのです。
長い時間がたち嵐が過ぎ去ったとき、
幸運にも、グレイハウンド号は、
沈むことなく海の上を漂っていました。
《私はまだ生きている!
今までの人生で、何ひとつ善い行いをせず、不徳ばかり繰り返してきた私を、
神は助けてくださった!》
ジョンは、自分が生きていることに驚きました。
この経験が、ジョン=ニュートンの、
【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】です。
ここで重要なことは、
《不徳ばかり繰り返してきた私を、神は助けてくださった。》
ことに驚き、深い感謝の気持ちを抱いたことです。
常日頃から、善い行いをしていたのなら、
助かるのは不思議ではないが、
《許されるはずもない私が許された》
ことに驚き、強く感動したのです。
そしてジョンは、
《今までの愚かな行いを反省し、敬虔深く生まれ変わる。》
と心に誓いました。
【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】が、
神の大きな慈悲を受けたと感じた、ひとりの人間の人生観を、
180度変えた出来事です。
🎹ジョン=ニュートンが繰り返した不徳とは
ジョン=ニュートンが、
《私は、何と罪深い人間だったのだろう。神は、きっとお許しにならないだろう。》
と思うまでの不徳とは、何でしょうか。
学校を途中退学したことや、軍から脱走したこと、
真面目とは言えない貿易船での仕事ぶりも、
意志の弱さゆえのことだと言えますが、
《神はお許しにならないだろう。》
と思うまでの不徳でしょうか。
実は、ジョンが、
許されないと思った不徳な行いとは、黒人奴隷貿易に携わったことでした。
1744年19歳の時に、
軍艦より移された貿易船が、
黒人奴隷貿易である三角貿易で富を得でおり、
それ以降ジョンは、黒人奴隷貿易に携わり続けていました。
三角貿易とは、
黒人奴隷たちが、衣類や武器、あるいは砂糖やタバコと、物と同然に物々交換される貿易です。
黒人奴隷たちは、
人として扱われることはありませんでした。
ジョンも、荒々しい他の船員たちと同じように、
黒人たちを乱暴に冷酷に扱ったといいます。
《不徳》とは、
「人の道から外れる・人の良心に基づく社会的道義に背いた行い」です。
ジョンは、死を意識するような危機的状況に陥ったことで、
自身の《不徳な行い》を明確に理解し、
《罪深い人間》だったと考えを改めることができたのです。
🎹《アメイジンググレイス》が起こった後
【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】を受け、
ジョンの人生観は180度変わり、
《今までの愚かな行いを反省し、敬虔深く生まれ変わる。》
と心では誓ったものの、
今までの黒人奴隷貿易の仕事をすぐにはやめられずにいました。
長い年月がかかったとはいえ、ジョンの
【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】への
深い感謝の気持ちは、本物だったのです。
🎼讃美歌『アメイジンググレイス』の誕生
1776年、50歳になって、
黒人奴隷貿易に反対した政治家ウイリアム・ウィルパーフォースと共に、
奴隷貿易廃止運動を推進します。
この時、ジョン自身が、
過去の自分の罪深き言動を隠すことなく証言することで、
奴隷貿易の悲惨さを訴えています。
ジョンが、毎週の礼拝のために書きためていた讃美歌が、
1779年、54歳のとき、
「オルニー讃美歌集」として発表されました。
その中のひとつが、
『われをもすくいし(我をも救いし)』で、
『アメイジンググレイス』の名前で世界中に広がっていきました。
グレイハウンド号遭難の危機で、
【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】を受けてから、31年後のことでした。
讃美歌『アメイジンググレイス』は、
ジョン=ニュートンが、
自身の心からあふれ出た
深い悔恨と、感動と感謝の念を持ち続けたことで生まれた曲なのです。
🎼『アメイジンググレイス』の広がり
『アメイジンググレイス』は、
イギリスからアメリカに渡った移民たちの心の拠りどころとして、
アメリカでも歌い継がれていきました。
1776年、
アメリカ合衆国が誕生し(イギリスから独立)、「独立宣言」を唱えます。
「独立宣言」は、
「自由平等・機会均等」の理念をかかげていますが、
実際には、その理念に相反する奴隷労働が、
依然として行われていました。
それが、後の南北戦争(1861-1865年)に発展していくことになります。
『アメイジンググレイス』は、
南北戦争とともに、兵士の間で広がっていきました。
🎼【アメイジンググレイス(驚くべき神の恵み)】の結実
ジョンの心からあふれ出た
深い悔恨と、感動と感謝の念から生まれた
『アメイジンググレイス』は、ついに、実を結ぶときがきました。
イギリスで、
ジョンが共に活動していた政治家ウィリアム・ウィルバーフォースらの運動により、
1807年に、まず、 奴隷貿易が廃止されました。
その後、1834年に、奴隷制度そのものが廃止されました。
アメリカでは、南北戦争中の1863年、
合衆国大統領リンカーンが、奴隷開放宣言に署名しました。
ジョン=ニュートンは、
イギリスで1807年に、奴隷貿易が廃止されたことを見届けた後の12月に、
82歳で亡くなりました。
✟ジョンが、晩年に残した言葉より
薄れかける私の記憶の中で、確かに覚えているものが2つある。
1つは、
《私がおろかな罪人であること》
もう1つは、
《キリストが偉大なる救い主であること》
深い悔恨と感謝の末に生まれた『アメイジンググレイス』は、
これからも世界中に、その精神が受け継がれていくことでしょう。
🎼『アメイジンググレイス』を歌いましょう!
人は、誰もが間違った行いをする弱いものです。そして、
《私はおろかな罪人である》と認めるには、勇気が、
心を改めて行動し続けるには、努力と忍耐が必要です。
『アメイジンググレイス』は、
生まれ変わりたいと望む全ての人に、
その勇気を与えてくれる歌ではないでしょうか。
歌い、聴いていると、
自然に敬虔な気持ちになり、
心が浄化されていくように感じられます。
当教室でご一緒に、気持ちよく声を出して歌ってみませんか。
今回のコラムにもお付き合いいただき、
ありがとうございました。
次回のコラム『ちいさな感動おおきな感動』も
よろしくお願いします。
梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪