ピアノのレッスンで、
バイエル、ツェルニー100番、ブルグミュラー25の練習曲などの、
初級練習曲を習得し、中級レベルへと進んだ生徒さんが、
必ず学ぶ練習曲集『ソナチネアルバム』。
【ソナチネ】は、
クラシック音楽の、本格的な音楽形式を基本として作曲された楽曲なので、
弾きこなせるようになると、
技術力・表現力が、しっかりと身についてきている実感が持てるでしょう。
また、
本格的な音楽形式を繰り返し練習することで、
クラシック音楽の本質や精神を、
少しずつ感じ取れるようにもなってくるでしょう。
すると、演奏がとても楽しくなります。
「今まで頑張って続けてきて良かった!」と、
頑張ることが、自分の自信や喜びにつながることも、
明確にわかるようになるでしょう。
本格的なクラシック音楽の入口でもある【ソナチネ】を、一通り習得すると、
次は、いよいよ上級レベルの【ソナタ】へと進みます。
モーツァルトやベートーヴェン作曲の、
あこがれの【ソナタ】を弾くために、
「頑張って【ソナチネ】を練習して、もっとレベルアップしよう!」
というモチベーションも高まります。
🎼【ソナチネ】とは
上級レベルの【ソナタ】と呼ばれる楽曲には、
モーツァルト作曲の『ピアノソナタ第11番 トルコ行進曲付き』、
TVドラマ『のだめカンタービレ』で演奏された『2台のピアノのためのソナタ』や、
ベートーヴェン作曲の『月光ソナタ』『悲愴ソナタ』など、
クラシック音楽に詳しくない人にも、よく知られている名曲が数多くあります。
これに対して、
『ソナチネアルバム』に収められている【ソナチネ】は、
ピアノレッスンの、中級レベルへと進んだ全ての生徒さんが、必ず学びますが、
一般的にはほとんど知られていません。
【ソナチネ】、また【ソナタ】とは、
どのような曲のことをいうのでしょうか。
それぞれの意味や内容について学ぶことで、
クラシック音楽への理解を深め、
興味をもって練習を進めましょう。
🎹【ソナチネ】とは《 小さいソナタ 》の意味
【ソナチネ】とは、
【ソナタ(nonata:イタリア語)】の語尾に【小さい(-ine)】という言葉を付けた、
《 小さいソナタ 》という意味の楽曲です。
【ソナチネ】を知るために、
【ソナタ】について、ごく簡単な説明をします。
▼【ソナタ】とは
いくつかの楽章で構成された、
クラシックの音楽形式【ソナタ形式】を用いて作られた楽曲です。
(3または4楽章が標準的。2楽章や5楽章以上の楽曲もあります。)
古典派のハイドンが構築し、
モーツァルト、ベートーヴェンが確立しました。
さらにベートーヴェンは、
次の時代のロマン派へとつながるような、発展的な【ソナタ】を作曲しました。
▼【ソナタ形式】とは
【ソナタ】の、主に第1楽章に典型的な形式として用いられ、三部構造を基本とします。
※曲によって、始めに(序奏)、終わりに(コーダ)部分が付く場合があります。
①提示部
第1主題(テーマ)が提示され、続いて、第2主題(テーマ)が提示されることで、
曲のイメージが決まります。
②展開部
提示された主題(テーマ)を様々に変形、変奏し、展開させることで、
曲を華やかに彩り、盛り上げます。
③再現部
第1主題、第2主題(テーマ)が元のかたちで再び現れ、
曲をまとめて締めくくります。
《 小さいソナタ》という意味の【ソナチネ】は、
《【ソナタ形式】を【小規模】にして作曲された曲 》のことです。
クラシック音楽の本格的な音楽形式を用いて作曲されながら、
《 シンプルな構成で短くまとまっている 》ので、
【ソナチネ】は【ソナタ】よりも、
《 理解しやすく、難易度も控え目で、練習に取り組みやすい 》と言えます。
※ラヴェル作曲のソナチネなど、一部、難易度が高いソナチネもあります。
🎼【ソナチネ】を学ぶわけ
中級レベルへと進んだ全ての生徒さんが、
必ず『ソナチネアルバム』を学ぶのは、なぜでしょうか。
🎹【ソナチネ】を学ぶわけ ① クラシック音楽の楽曲構成の基本を理解する
《 小さいソナタ》の【ソナチネ】を学び、
クラシックの音楽形式【ソナタ形式】をしっかりと理解することで、
本格的な大曲【ソナタ】を演奏する上級レベルへと、
スムーズに進むことができます。
🎹【ソナチネ】を学ぶわけ ② 中級レベルの技術力の習得に最適
ハノンやツェルニーなどの技術練習曲は、
音階や分散和音を、規則的な形で繰り返して、技術力をつけていきます。
【ソナチネ】は、
音階や分散和音が、規則的な反復ではなく、
様々な形で次々と変化しながら続きます。
音楽的なメロディとして表現される様々なフレーズにも、
指を一つ一つ独立させて自在に動かし、
安定したタッチで、なめらかに演奏できる技術力の習得に適しています。
🎹【ソナチネ】を学ぶわけ ③ 音楽的な表現力も同時に習得できる
音楽的な楽曲としての表現が必要なため、
技術力と表現力を、同時にレベルアップすることに適しています。
♬【ソナチネ】で学ぶ表現力
フレーズの十分な歌わせ方
メロディと伴奏の音のバランスのとり方
イメージに合う音色を出すためのタッチ・腕の力のコントロールの仕方
曲のイメージや流れ、締めくくりなど、
曲全体の造りをつかみ、表現する。
【ソナチネ】は、音楽的な楽曲構成の【ソナタ形式】を用いて作曲されているため、
本格的なクラシック音楽としての技術力・表現力どちらの習得にも適しています。
🎼【ソナチネ】で中級レベルの技術力をしっかりとつけるために
🎹【ソナチネ】技術力:基本を意識することが大切
【ソナチネ】では、
単純ではない様々な形の音の動きやリズムが続きます。
まず、ピアノ演奏の基本を守って演奏できるテンポで、練習しましょう。
♬ ピアノ演奏の基本
①テンポ・リズムを正確に
②一音ずつ粒をそろえて丁寧に
③メロディと伴奏のバランスを適切に
速度指定に合わせて速いテンポで弾いて、
①難しい箇所でテンポが遅れる・リズムが崩れる
②タッチがしっかりと出来ずに上滑りする
③メロディが弱い・十分に歌えない
という場合は、まだ、速いテンポではなく、
ゆっくりとしたテンポで、基本通りに演奏できるようになってから、
少しずつ、速度指定のテンポに近づけていきましょう。
【ソナチネ】を慌てて仕上げようとすると、
いよいよあこがれの大曲【ソナタ】では、太刀打ちできなくなってしまいます。
あこがれの【ソナタ】を弾くためにも、
【ソナチネ】を丁寧に練習して、
しっかりとした技術を身に付けましょう。
ピアノ演奏の基本を意識して練習することが大切です。
🎼【ソナチネ】で表現力をしっかりとつけるために
🎹【ソナチネ】表現力:試行錯誤を重ねる
【ソナチネ】の表現では、次の2つの表現について意識しましょう。
①
様々な形で次々と変化しながら出てくる音階やアルペジオのフレーズを、
音楽的なメロディとして十分に歌わせる。
例えば、
フレーズの強弱記号がピアノ(P:弱く)の場合、
単に弱く演奏するのではなく、
【弱い音】で何を表現したいのかを考える。
(穏やかさ・悲しみ・繊細さ・心地良さ・軽やかさなど)
②
例えば、
速度記号がアレグロ(速く)の場合、
単に速く演奏するのではなく、
【速さ】から、曲全体をイメージするのは何かを考える。
(軽快さ・激しさ・緊張感・躍動感など)
【ソナタ形式】を理解して表現する。
⇩
曲の流れや変化、つながりを感じ取り、曲をまとめて締めくくり、
ひとつの物語のように表現する。
♬ 表現力を高めるには
イメージを感じ取り、
どんな音色・弾き方で演奏するのかを考えます。
⇩
感じて、考えたイメージに合う音色を出すためには、
どんなタッチで、どんな力の入れ具合で弾けばよいのか、
練習しながら、色々と試してみましょう。
⇩
演奏している音をよく聴きましょう。
あこがれの【ソナタ】では、
さらに奥深い表現力が求められます。
《小規模なソナタ=【ソナチネ】》で、
自分の頭と体(手・腕・耳)を使って、試行錯誤を重ねることが大切です。
🎼クレメンティ作曲『ソナチネOp36(全6曲)』
🎹親しみをもって楽しく練習できるクレメンティ作曲『ソナチネOp36(全6曲)』
ここまで読んで、
「中級レベルの『ソナチネアルバム』に進むのは嬉しいけれど、
練習が大変そう、、」と思っていませんか。
『ソナチネアルバム』に収められている【ソナチネ】は、
一般的にはほとんど知られていませんが、
練習曲として作曲されながら、
曲の感情を表すメロディとしての要素が大きく、
楽しんで練習できる曲がたくさんあります。
特に、
クレメンティ作曲の『ソナチネOp36(No.1~6の全6曲)』は、
どの曲も、明るい曲調に軽快なリズム、可憐なメロディで、
親しみやすく、生徒さんに好まれています。
発表会で披露する曲としても、人気が高いです。
🎼『ソナチネOp36(No.1~6の全6曲)』の作曲者:クレメンティ
『ソナチネOp36(全6曲)』の作曲者、
ムツィオ・クレメンティ( 1752-1832年)は、
イタリアで生まれ、
クラシック音楽古典派時代(1750-1820年頃)に、
主にイギリス ロンドンで、
作曲家、ピアニスト、音楽教育者、楽譜出版業社、ピアノ製作業者と、
音楽に関して多岐にわたって活動し、大成功をおさめた音楽家です。
同じ時代の大作曲家、
ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンや、
後世の音楽家にも大きな影響を与えました。
クラシック史上、多くの功績を残した音楽家ですが、
その活躍は、現在ではほとんど知られていません。
『ソナチネOp36(全6曲)』を練習する機会に、
作曲者のクレメンティについて学んでおきましょう。
曲が作られた背景を知ることで、興味深く練習することができます。
🎼「ピアノフォルテの父」クレメンティ
クレメンティは、
1832年3月10日に亡くなり(80歳)、
その月のうちに、ロンドンのウェストミンスター寺院に埋葬されました。
世界遺産に登録されているウェストミンスター寺院には、
イギリス歴代の王や、
錚々(そうそう)たる歴史上の偉人たちが埋葬されており、
▼ウェストミンスター寺院に埋葬されている偉人たち(ほんの一部)
アイザック・ニュートン(自然哲学者:万有引力)
スティーブン・ホーキング(物理学者:量子宇宙論)
チャールズ・ダーウィン(自然科学者:進化論)
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(作曲家)
ローレンス・オリビエ(俳優・映画監督)
イギリス初代王 ウィリアム1世(即位1066年)以来、
ほぼ全ての王(2人を除く)が、
戴冠式を執り行っている場所でもあります。
クレメンティの功績が、どれほど大きかったのか、容易に想像ができますね。
当時、ヨーロッパでは誰もがその名を知る音楽家でした。
ウェストミンスター寺院のクレメンティの墓石には、
【ピアノフォルテの父】と刻まれています。
▼ピアノフォルテとは
1709年に、バルトロメオ・クリストフォリによって発明された鍵盤楽器。
現在のピアノの原型。
当時の鍵盤楽器だったチェンバロやクラヴィコードが、
音の強弱をつけられなかったのに対し、
ピアノフォルテは、
【ピアノ(p:弱く)からフォルテ(f:強く)まで】
奏者のタッチによって、自由に音の強弱がつけられる、
画期的な進化がもたらされました。
正式名称
「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」を省略して、
「ピアノフォルテ」または「フォルテピアノ」と呼びます。
時代を経て、さらに省略されて、
「ピアノ」と呼ばれるようになりました。
【ピアノフォルテの父】と称えられる、
クレメンティの功績をみていきましょう。
🎹クレメンティの功績①ピアノ教育:練習曲集の作曲
多岐にわたる音楽活動の中でも、
特に、ピアノ教育に関して、
クラシック音楽史上、重要な役割を果たしました。
クレメンティは、作曲家として、
生涯で、ソナタを100曲、交響曲は20曲など、多くの楽曲を作曲していますが、
《 ピアノ練習曲集 》の作曲で、
ピアノ教育に多大な貢献をした音楽家です。
14歳で教会の常任オルガニストの地位を得るなど、
優れたピアノ演奏者でもあったクレメンティは、
ピアノ学習において、初めてとなる体系的な練習曲集を作成し、
多くのピアニストを育て、世に送り出しました。
1700-800年代は、
急速に進化したピアノが、貴族家庭に普及し、
ピアノの家庭教育が盛んになった時代です。
クレメンティは、
貴族の子供たちのピアノ練習のために、
『ソナチネOp36(全6曲)』を作曲し、
当時から、質の良いピアノ練習曲として広く認められていました。
1797年の出版から200年以上経った現在でも、
変わらず重用され続けるピアノ練習曲を作曲したことは、
ピアノ教育の歴史上、大きな価値のある功績です。
ショパン、リスト、ツェルニーらも、
門下生のレッスン用に、クレメンティの練習曲集を使っており、
本格的なピアニストを育てるための教材として、
後世の作曲家からも高く評価されていました。
ショパン(1809-1849年 ロマン派の作曲家)が、
門下生に、必ず弾かせていたというクレメンティの練習曲集
▼『前奏曲と音階練習曲集』
全ての調(24調)を基に、短い前奏曲と音階練習曲とをセットにして作られています。
音楽的な情感を込めて作られた練習曲で、
技術力とともに、
それぞれの調のイメージを感じながら、表現力を学ぶことができます。
最後の曲は、
『全調による華麗なる大練習曲』で、締めくくられています。
▼『グラドゥス・アド・パルナッスム(芸術の聖地へのはしご)』
ドビュッシー(1862-1918年 印象派の作曲家)が、
自分の娘が練習する姿から着想を得て、
組曲『子供の領分』の第1曲目『グラドゥス・アド・パルナッスム博士』を作曲しました。
クレメンティが生涯をかけて作曲、編曲を続けて制作し、
晩年に出版された、ピアノの技術練習曲集です。
全3巻100曲で構成されており、
ピアノのあらゆる技術を習得するための、
上級者向けの練習曲集です。
高度な技術の習得に重点が置かれており、かなりの難曲です。
クレメンティの音楽人生の集大成と捉えられています。
🎹クレメンティの功績②ピアノ製造・販売
クレメンティは、
1798年頃から、ピアノの製造・販売会社を経営しました。
バルトロメオ・クリストフォリによって、
1709年に発明された鍵盤楽器「ピアノフォルテ」に、
演奏家としての経験を活かし、
自ら、ピアノの設計に改良を加えて、
(アクションの改良・ピアノの音域の拡大・ペダルの改良・フレームの耐久性向上など)
ピアノをより一層、発展、進化させました。
クレメンティのピアノは、
当時、最高のピアノのひとつとして評価が高く、
ベートーヴェンが愛用していたことが知られています。
ピアノの発展は、
作曲される曲の規模の大きさや、演奏家の表現の広がりなど、
クラシック音楽そのものの発展につながりました。
そして、
良質なピアノの普及とともに、
クラシック音楽が、社会全般の文化として広がっていきました。
クレメンティが、
精力的に行ったピアノ製造・販売は、
クラシック音楽の歴史上、重要な功績となりました。
🎹クレメンティの功績③楽譜出版・販売
クレメンティは、楽譜の製作・販売事業も行いました。
ピアノの普及が急速に広がり、
それに伴い、十分な楽譜の普及も必要となったのです。
ベートーヴェンを自ら訪ね、
1807年には、
ベートーヴェン作品の、イギリスでの独占出版権を得て、精力的に販売しました。
元々の音楽家としての名声により、
クレメンティの製作する楽譜は、高く評価されており、
ベートーヴェンの作品をはじめ、
多くのクラシック楽曲を、世に広めることに貢献しました。
🎼生涯を通じて音楽の発展に情熱を注いだクレメンティ
1813年、
クレメンティと、ロンドンの音楽家たち(およそ30名)が、
フィルハーモニー協会を設立し、常任指揮者に就任しました。
1814年、
クレメンティは、スウェーデン王立音楽アカデミーの会員に選ばれました。
▼スウェーデン王立音楽アカデミー
1771年、
国王グスタフ3世によって設立された、
音楽芸術の発展を目的とした独立組織です。
音楽の芸術的、科学的、教育的、文化的な発展を推進する役割を担うことを目的としています。
王立としての権威と歴史があり、音楽界全体への強い影響力を持っています。
▼スウェーデン王立音楽アカデミー会員
アカデミーによる選出を通じて、
音楽界での長年の顕著な功績や貢献が認められた人が任命される、
名誉ある地位です。
クレメンティは、
幼少期にピアニストとして活動を始めてから、
作曲家、音楽教育者、ピアノ・楽譜の製作・販売事業の経営、指揮者と、
音楽全般にわたる多彩な才能を生かして、
1832年、80歳で亡くなるまで、生涯にわたって音楽の発展に情熱を注ぎました。
クレメンティの情熱は、
その時代、また後の時代の、
多くの音楽家たちに大きな影響を与え、
クラシック音楽の発展に重要な役割を果たしました。
🎼クレメンティの【ソナチネ】でレベルアップ!あこがれの【ソナタ】へ
クラシック界に大きく貢献したクレメンティ作曲の、
『ソナチネOp36(全6曲)』は、
憧れの【ソナタ】を演奏するために、
欠かすことのできないステップとして、
200年以上もの間 変わらず、重用されている練習曲です。
《 小さいソナタ=【ソナチネ 】》が果たし続けてきた役割の大きさを知ると、
練習にも熱が入りますね!
クレメンティ作曲の『ソナチネOp36(全6曲)』で、
技術力も表現力もレベルアップ!して、
本格的な大曲【ソナタ】に進みましょう!
🎼当教室でピアノを始めてみませんか
ピアノにご興味のあるお子さまや、
大人になってピアノを始めたい初心の方、
ブランクがあって、再び始めたい方、
当教室でピアノのレッスンを受けてみませんか。
まずは、
お気軽に体験レッスンにお越しください!
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今回のコラムにお付き合いいただきありがとうございました。
次回のコラム『ちいさな感動おおきな感動』も
よろしくお願いいたします。
梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO(^^♪

