まぼろしの月だった?: ベートーヴェン ピアノソナタ第14番『月光』

音楽 ちいさな感動 おおきな感動

ベートーヴェン ピアノソナタ第14番『月光』は、私が高校1年生の時に、当教室の発表会で弾いた曲です。

この『月光ソナタ』に関して、後に、
大変なショックを受けたことがあります。

発表会では、全楽章(演奏時間 約15分)を弾いた!
ということもあって、とても思い入れがあり、
数十年経った今も、月を見上げる度に
『月光』の幽玄なメロディーが心に流れてくるのですが、、

ダニエル・バレンボイム演奏
ベートーヴェン ピアノソナタ第14番『月光』 

このソナタの『月光』という題名は
何と!ベートーヴェン自身が付けたのではなかったのです!!!

ベートーヴェンは、この曲を作曲した際、
『幻想曲風ソナタ』という副題を付けました。
が、『月光』とは名付けていないのです。

恥ずかしながら、
発表会で演奏したかなり後になってから知り、
大変なショックを受けたのです。
それも、二重の意味で大変なショックでした。

ひとつ目のショックは、作曲とは、
作曲者が心に思い浮かべるイメージや
湧き上がってくる感情を、音楽にして表現することですから、 

『ベートーヴェンピアノソナタ第14番』は
ベートーヴェン自身が、
「月光を心に思い浮かべてその有様を表現した」または、
「月を見上げて心に湧き上がってきた感情を表現した」だから、
ベートーヴェン自身が『月光』と名付けた。
と、当然のように思っていました。

「このメロディーが、ベートーヴェンが見た月光なんだ!」

と、おおきく感動して、心が震えていたのです!
厳粛さ、輝かしさ、狂おしさなど、
形容しがたい畏怖の念すら感じられるこのソナタのメロディー。
それを「月光」が映し出している!

・・・そう信じて疑わなかったからです。

ふたつ目のショックは、
この事実を全く知らないままに、
一生懸命練習し、ステージで発表した私自身の勉強不足に。

では、ベートーヴェンが
名付けたのではないのなら、
このソナタは、いつ、誰によって
『月光』と名付けられたのでしょうか?

それは、ベートーヴェンが亡くなってから5 年後(1832年)、
音楽評論家であり詩人であったルートヴィヒ・レルシュタープ(1799-1860)が、
このソナタの第一楽章を
「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう」
と評したことからきています。

それが、あまりにも曲のイメージとマッチしている、と思う人々が多かったのでしょう。
それから、通称『月光ソナタ』と呼ばれるようになり、
楽譜の出版の際にも、そのように印刷されるようになりました。

調べてみると、特に1850年代頃までは、
第三者が勝手に題名を付け、それがそのまま
定着してしまった曲が、たくさんあります。
なぜでしょうか?

     題名がない曲」と、
     題名がある曲

皆さんは、聴いたことがない曲の場合、
どちらを聴いてみたいと思うでしょうか?

楽譜を持っていない場合、
どちらの楽譜を買いたくなるでしょうか?

演奏したことがない場合、
どちらを演奏したくなるでしょうか?

  『ピアノソナタ第14番』と、
  『ピアノソナタ第14番 月光』

つまり、
演奏会を満席にしたい演奏会業者や、
楽譜をたくさん売りたい出版社などが、商業目的で勝手に命名していたのです。
・・・今の時代では、考えられないこと
ですが、当時は一般的なことでした。

また、商業目的ではなくても、
作曲者が亡くなった後、弟子が名付けていたり、研究者や演奏者が
名付けている場合もあります。

ジャジャジャジャーンの交響曲第5番『運命』も、後から名付けられました。

またまたショック!!!ですね。

『運命』という題名は、
弟子から「あの『ジャジャジャジャーン』は何ですか?」
と聞かれたベートーヴェンが、
「運命が扉をたたく音だ」と答えた、という逸話に由来しています。
が、真偽は明らかではありません。

ショックではありますが、
どのような理由で題名が付けられたとしても、
世の中に、その曲が広く深く、
長い間にわたって愛されているからこそ!
「愛称」として親しみを込めて呼ばれるようになり、定着しているのですね。

他に、ベートーヴェンの曲だけでも、
ピアノソナタ『熱情』
      『テンペスト(嵐)』
      『ヴァルトシュタイン』
※ベートーベン自身が命名したピアノソナタは『悲愴』『告別』のみ

ピアノ協奏曲『皇帝』
ピアノ三重奏曲『大公』
ヴァイオリンソナタ『春』
などなど、、

交響曲第9番『合唱』『歓喜の歌』『第九』
など、特別にたくさんの題名が付いています。
が、これもすべて、
ベートーヴェン自身が付けたのではなく、
「愛称」として広がったものです。

こちらは皆さんも、
「愛称」のような感じを受けていらっしゃるのではないでしょうか。

さて、ここでさらなる興味がわいてきます。 

「月光」ではないのなら、
ベートーヴェン自身は、
何を主題にこのソナタを作曲したのでしょうか?

知りたくなりますね。

ですが、お話がずいぶん長くなってきました。
この続きは、是非、次のコラムをご覧ください。

今回も、お付き合いいただいて、ありがとうございました。
これからもコラム『音楽 ちいさな感動 おおきな感動』を
よろしくお願いします。
 
梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪

大阪府吹田市千里丘の音楽教室です。 幼児(3歳)からシニアの方まで、随時ご入会を受け付けています。 現在、個人レッスンによる「ピアノ」「声楽」「チェロ」「ソルフェージュ(視唱、聴音、楽典など)」の4科目を開講しており、初心者、経験者、趣味で楽しみたい方、また音楽大学・音楽高校を目指したい方など様々な生徒さんが在籍されています。 ご一緒に音楽を楽しみませんか。
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