🎼「ベートーヴェン の三大ピアノソナタ」のひとつ
ベートーヴェンピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13『悲愴』は、
ベートーヴェンが作曲したピアノソナタ全32曲の中でも、特に名高いソナタです。
第14番『月光』第23番『熱情』と合わせて、
「ベートーヴェン の三大ピアノソナタ」と呼ばれ、
ピアノを学ぶ人ならば、
誰もが必ず弾いてみたいと願う憧れの曲で、
当教室でも、レッスンしています。
珍しいのは、
いかにもベートーヴェン!の
激しく情熱的な1楽章や、憂いが漂う軽快なリズムと、厳かなハーモニーが、
交互に緩急変化する3楽章よりも、
一般的には、
2楽章のメロディーが良く知られています。
柔らかで、うっとりするような美しいメロディーが、
今までに何度も、有名企業のテレビCMに使用されています。
今回は、
『悲愴』ソナタが作曲された背景を知り、理解を深めることで、
より深みのある感情表現につなげていきましょう。
その前に、
ベートーヴェンの作品の中でも、交響曲と並んで意義深いとされる、
【ピアノソナタ】全般について、学んでいきましょう。
🎼ベートーヴェンにとってのピアノソナタの意義とは
ベートーヴェンにとって【ピアノソナタ】は、
自身の音楽を革新的に発展させ、
表現することができる重要な作品でした。
ベートーヴェンは、生涯、
【ピアノソナタ】を世の中に送り出すことに、情熱を注ぎ続けました。
🎹鍵盤楽器が、歴史上、最も大きく発展した時期
ちょうど、ベートーヴェンが作曲家として
活躍し始めたころから、
まるで、ベートーヴェンの
燃える創作意欲に合わせるかのように、
鍵盤楽器が飛躍的に発展していきました。
▼鍵盤楽器の発展の歴史
♬18世紀前半まで
ピアノの前身楽器「ハープシコード」
音の強弱なし
音域3~5オクターブ
♬18世紀初め(1709年)
初代ピアノ「ピアノ・エ・フォルテ」の発明
ハンマーアクションを備える
⇩
その名の通り、
音の強弱がタッチにより可能になる
♬18世紀後半にかけて
音域5オクターブ半まで広がる
♬19世紀はじめ~
☆鍵盤楽器が、歴史上、最も大きく発展した時期☆
ペダルやハンマーアクションの
さらなる進歩
新しい素材のフレームや弦の発明
⇩
強い音(フォルテ)の連続が、
安定して出せるようになる
音域7オクターブまで広がる
19世紀はじめは、
ピアノは、高度な演奏技術に耐えられる高性能なものに改良され、
楽曲の表現の幅が、画期的に広がっていました。
ちょうど、
ベートーヴェンが作曲家として認められ始めた時期に当たり、
進化したピアノの機能を最大限まで生かした【ピアノソナタ】を
次々に生み出していくことが、
ベートーヴェン自身の音楽を革新的に発展させ、
表現することになったのです。
🎼ベートーヴェンの音楽とは、どのような音楽なのでしょうか。
では、
ベートーヴェンの音楽とは、どのような音楽なのでしょうか。
主に、次の3つの点があげられます。
🎹 ① ひとりの人間としての魂の発露、それが音楽
ベートーヴェンよりも前に活躍した
ハイドン、モーツァルトたち音楽家は、
貴族に雇われて、
貴族が娯楽として楽しむための曲を作っていました。
そのため、雇い主の貴族たちが喜ぶような、
明るく華やかな、軽やかな音楽が求められ、
自己表現としての音楽を作曲し、
演奏できる機会は与えられていませんでした。
ベートーヴェンも、
若いころに宮廷に仕えていましたが、
《自由に曲を作りたい!》
と強く望んでいました。
ベートーヴェンの思いと呼応するかのように、
フランス革命(1789-1795年:18世紀終わりころ)が起き、
貴族社会が崩壊していきます。
まさに、歴史の転換期の只中に、ベートーヴェンがいたのです。
《これからは、貴族が求める曲ではなく、自由に曲が作れる!》
ベートーヴェンは、
ひとりの人間としての様々な感情を、
曲に注ぎ込んで作曲し、才能を開花させていきます。
ベートーヴェンにとって音楽とは、
自己表現のためにありました。
湧き上がってくるひとりの人間としての魂の発露
それが、ベートーヴェンの音楽なのです。
※ベートーヴェンには、ほぼ生涯に渡って資金面で支えてくれた貴族たちがいました。
それは、ベートーヴェンの音楽に敬意を表し、音楽の振興に熱心な貴族たちでした。
そのため、ベートーヴェンは、自由に、自分自身の感情を表現した曲を作曲できたのです。
一方、モーツァルトは、宮廷音楽家として仕えていた大司教と25歳の時に決裂し、
その後、独立しました。フリーで生計を立てた初めての音楽家がモーツァルトです。
しかし、収入を得るためには、裕福な貴族にピアノを教えたり、貴族の邸宅を借りての演奏会など、
貴族が気に入る音楽から逸脱することは、難しいことでした。
🎹 ② 音楽史上で最も重要な革新となった、新しい音楽作品の数々
ベートーヴェンの魂の叫びから生み出し続けられた、数々の音楽作品は、
【 クラシック音楽史上で最も重要な革新】
と言われています。
ベートーヴェンは、
クラシック音楽の歴史における、
古典派と呼ばれる時代(18世紀中ごろ〜19世紀はじめ)の作曲家です。
古典派の音楽は、先人として、
この時代に活躍した偉大な音楽家、
ハイドンとモーツァルトが確立した音楽様式がありました。
しかし、ベートーヴェンは、
フランス革命という時代の転換期の波に乗り、
古典派の音楽様式にとらわれず、
自由な発想で、
心にあふれ出てくる感情を表現するために、
独自の音楽を築き上げていきます。
魂が求めるままに作曲することで、
既存の音楽の様式を変えていきました。
確立された様式・形式に基づいた曲ではなく、
誰も聴いたことがないような斬新で、
劇的に展開していく音楽を、次々に作曲したのです。
作品のひとつひとつが、
個性にあふれ、創造性に満ち、強いエネルギーを放ち、
聴いた人だれもが驚嘆しました。
そして今もなお、人々の心を揺さぶり続けるのです。
ベートーヴェンの音楽は、
【 クラシック音楽史上で最も重要な革新】となり、
次の時代のロマン派音楽へとつながっていったのです。
🎹 ③ 音楽は、 貴族のためではない、民衆のために!
フランス革命が起こり、
貴族中心の社会から民衆の社会への転換期の中で、
ベートーヴェンは、貴族の娯楽のための音楽ではなく、
民衆のために音楽を作曲しました。
裕福に優雅に暮らしていた貴族たちとは違い、
貧しい生活の苦しみの中から、
自由と平等を求めて立ち上がった民衆たちの姿が、自分自身と重なったのです。
自分を鼓舞するための音楽は、
同時に、民衆を勇気づけるための音楽でした。
《困難に立ち向かおう!苦しみを乗り越えて、
進もう!その先には喜びがある!》
自分と民衆のための音楽を作曲すること
は、ベートーヴェン自身が、
人生の苦しみを乗り越えていくための使命感となりました。
心の中に湧き上がる情熱を使命感に変えて、
自分自身と民衆を救おうとしたのが、ベートーヴェンの音楽です。
🎼まさにミラクル!神に選ばれたベートーヴェン
【 クラシック音楽史上で最も重要な革新】となった、
新しい音楽作品の数々が生み出された背景には、
【奇跡的】に重なった、3つの事柄があるのです。
2つは、これまでにお話した、
大きな歴史的できごとと、
もうひとつは、ベートーヴェンに背負わされた運命です。
🎹2つの大きな歴史的できごとは【偶然】か【必然】か
❶ピアノの飛躍的な発展
❷フランス革命による貴族社会の崩壊
この2つの大きな歴史的できごとは、
《ひとりの人間として、自由に、
自己表現のために、
そして、民衆のために音楽を作りたい!》
という、ベートーヴェンの強い意志に合わせるかのように起こり、
ベートーヴェンの創作に重要な役割を持つことになりました。
これは、【偶然】なのでしょうか。
強いエネルギー同士が、お互いが必要とするものを引き寄せ、合わさり、
さらにエネルギーを増した大きなパワーによって、
それぞれが急速に変化、飛躍的に進化していったように感じられます。
これは、【偶然】ではなく、
【必然】に起こるべくして起こったのではないでしょうか。
🎹【奇跡】というべき、もうひとつのできごと
➌ ベートーヴェンを襲った《 難聴 》
もし、
ベートーヴェンが、音楽家として致命的な
《 難聴 》という苦悩を抱えることがなかったとしたら、
【 クラシック音楽史上で最も重要な革新】となるほどの数々の作品は、
生まれていたのでしょうか。
ベートーヴェンは、自身が抱えた
強烈な苦悩や不安、恐怖、
そして、その先に見た歓び・・・
湧き上がってくるひとりの人間としての
激しい感情を情熱に変えて、作品として昇華していきました。
ベートーヴェンにとって、
苦悩はエネルギーの源だったのです。
そのエネルギーが強ければ強いほど、
音楽に宿るエネルギーは強くなり、
今もなお、消えることなく光を放ち続け、
世界中の人々の魂を揺さぶり続けているのです。
《大きな時代の転換期に、
それが起きている場所に、
大きな苦悩を抱えたベートーヴェンが、
作曲家として存在していた》
これは、まさに、
【奇跡】ではないでしょうか!
ベートーヴェンは、神に選ばれたのです!
🎼『悲愴』は、ベートーヴェンピアノソナタの前期作品の頂点
ベートーヴェンにとって【ピアノソナタ】は、
自身の音楽を革新的に発展させ、表現することができる重要な作品で、
全32作品が作曲されました。
作曲された時期や作風によって、前期、中期、後期に分けられています。
※時期については、いくつかの考え方により違いがありますが、便宜上のものです。
ここでは、1800年までに作曲された第11番までを前期作品とします。
ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13『悲愴』は
《前期11作品の中の頂点》と言われる曲で、
ピアニストとして活躍していたベートーヴェンが、
作曲家として世の人々に認められることになった重要な作品です。
まさに、
《傑作》と言われている『悲愴』ソナタは、
どのような作品なのでしょうか。
《前期11作品の中の頂点》と言われるわけについては、
次のブログを、是非、ご覧ください。
ベートーヴェンが作曲した、
名曲ばかりがズラリと並ぶピアノソナタの中でも、
特に、『悲愴』ソナタが《傑作》と言われている背景を知り、理解を深めることで、
より深みのある感情表現につなげていきましょう。
今回のコラムにもお付き合いいただき、
ありがとうございました。
次回のコラム『ちいさな感動おおきな感動』も
よろしくお願いします。
梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪