比べて歌おう!『野ばら』シューベルト少年とヴェルナー少年:歌のレッスン

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🎼ドイツの詩人ゲーテによる詩『野ばら』の歌曲は、154曲もあります!

ドイツの詩人ゲーテ(1749-1832年)は、
詩人、小説家、劇作家として、世界中に名を馳せている文豪です。
皆さんも、『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』という作品の名前を耳にしたことがあるでしょう。

また、文学史上の偉人というだけではなく、
自然科学者、物理学者、法律家、政治家として、多方面で活躍した秀逸な人でした。

多彩な才能を持つゲーテが、22歳のときに(1771年)書いた詩『野ばら』
当時の音楽家たちの間でも、大変な人気があり、多くの作曲家によって、
歌曲として作曲されています。

その数、驚くことに何と、154曲 ! 

ゲーテの同じ詩から、
154曲もの 「歌曲『野ばら』」が作曲されたのです !
          

🎼154曲もある中から特に有名な『野ばら』は

その中でも、 特に有名な曲が、
シューベルト(1797-1828年 オーストリア)作曲の『野ばら』と、
ヴェルナー(1800-1833年 ドイツ)作曲の『野ばら』です。
※シューベルトとヴェルナーについて後に解説あり

どちらの曲も、
ドイツ歌曲の中で、特に名高い曲として知られています。
美しいメロディーはそれぞれに、世界中で広く愛されています。

日本でも、
シューベルト、ヴェルナーともに、
クラシック音楽の域を超えて、一般的にも親しまれてきました。

小、中学校の音楽の教科書に掲載されているので、歌ったことがある人も多いのではないでしょうか。
また、音楽の時間だけではなく、
授業開始終了のチャイムとして、給食時間のバックミュージックとしても広く使われていて、
子どものころから聞き覚えがあり、
馴染み深い曲として思い出されることでしょう。

ゲーテの詩、同じ『野ばら』から作曲された154曲の中には、
シューベルトとヴェルナーの他に、
ベートーヴェン、シューマン、ブラームス作曲の『野ばら』もあります。

今回は、
当教室の、大人の声楽科クラスでレッスンした
ヴェルナー作曲の『野ばら』について、
曲の背景を知ることで理解を深め、歌い方を学んでいきます。

この機会に、
ヴェルナーの『野ばら』と同じく、
世界的に広く有名なシューベルトの『野ばら』についても学ぶことで、
さらに演奏の表現力を、発展させていきましょう。
           

🎼全く違う印象のシューベルトと、ヴェルナー の『野ばら』

シューベルトとヴェルナーは、
同じゲーテの詩『野ばら』から、
どのようなインスピレーションを得て、作曲したのでしょうか。

1番の歌詞を読んでみましょう 。
※広く親しまれている近藤朔風の日本語の歌詞です。

童  (わらべ ) はみたり
野なかの薔薇  ( ばら )
清らに咲ける
その色 愛 ( め ) でつ
飽かずながむ
紅 ( くれない ) におう
野なかの薔薇  ( ばら )

【同じ歌詞からインスピレーションを得て】
作曲されたシューベルトとヴェルナーの『野ばら』ですが、

この2曲を聴き比べてみると、
【同じ歌詞からインスピレーションを得て】
作曲されたとは思えないほど、全く違う印象を受けます。

全く違う印象を受けるのは、
曲の構成において、様々な違いがあるからです。

大きな違いがありながら、
どちらの『野ばら』も、美しく明るいメロディーで、聴く度に、清々しい気持ちになります。

そしてどちらも優劣などつけられないことは、
この2曲を知っている人なら、誰もが思うところでしょう。
       

🎼シューベルトとヴェルナーなぜ、大きく違う印象の曲に?

では、なぜ、
そんなにも大きく違う印象の『野ばら』になったのでしょうか?

それは、同じゲーテの歌詞を読んだシューベルトとヴェルナーが、
歌詞から感じ取ったイメージが、それぞれ全く違うものだったからです。
      

🎼シューベルトとヴェルナー自身=「童」(「少年」)になっている

ゲーテの歌詞には、「童」(「少年」) が登場します。

シューベルトとヴェルナーは、
詩の中の登場人物「童」(「少年」) が、
【バラを見てきれいだ】と思っている気持ち、その気持ちに共感しています。

つまり、
シューベルトとヴェルナー自身が、
詩の中の登場人物「童」(「少年」) に自分自身を投影し、【バラを見てきれいだ】と思い、
そこからイメージをふくらませて、感じたことが曲になっているのです。


🎼バラに感じたイメージを、曲ではどのように表しているでしょうか。

同じゲーテの詩の中の
【バラを見てきれいだ】と思った
シューベルト少年とヴェルナー少年、その気持ちをどのようにふくらませて曲にしたのか、
それぞれの『野ばら』を聴いてみましょう。
          

🌹シューベルト少年がバラに感じたイメージ

シューベルト作曲『野ばら』(1815年作曲 )

シューベルト作曲『野ばら』(1815年作曲 )

歌 / ディートリヒ・フィッシャ=ディースカウ(ドイツ)
20世紀の偉大なバリトン歌手のひとりです。
レパートリーは、オペラ、宗教曲など幅広く歌いこなし、特に、ドイツ歌曲においては傑出した表現力をもっていると言われています。

          
▼曲の構成の特徴

・2/4拍子・・・ 軽快なリズム 
・ト長調 ・・・ 明るく活気があり

       はつらつとした調子
・ 音符・・・・ スタッカートの多用

       (音を短く切って演奏する)

メロディーとリズムを重視し、
軽快に流れるような印象のメロディーにすることで、
ゲーテの詩の繊細さと優美さを際立たせています。

この曲調からは、
バラの美しさに心が弾んでいる少年の、
無邪気な喜びが、ストレートに伝わってきます。

 この曲調から次のことがわかります。

🌹シューベルト少年が、
ゲーテの詩の【バラを見てきれいだ】という気持ちに共感し、そこからふくらませたイメージ

きれいな薔薇を見ていると、
ウキウキルンルンしてくるよ!嬉しくてスキップしちゃうよ!
一緒に遊ぼうよ!

        

🌹 ヴェルナー少年がバラに感じたイメージ

ヴェルナー作曲『野ばら』(1829年作曲 )

ヴェルナー作曲『野ばら』(1829年作曲 )
歌 / ウイーン少年合唱団

歌曲『野ばら』は、ヴェルナー自身が指揮者を務めていた合唱団の演奏会で初演されました。
合唱での演奏は、この曲の特徴であるハーモニーの美しさが際立ちます。


▼曲の構成の特徴

・6/8拍子・・・ゆったり民謡的
・変ホ長調・・ 柔らかく深みがあり、
       神聖な響きの調子
・音符・・・・ レガートの多用
(音をなめらかにつなげて演奏する)

音(ハーモニー)の変化を重視し
曲に深みをもたせることで、
ゲーテの詩の精神的神聖さと神秘さを強調しています。

この曲調からは、
バラの美しさに至福にひたる少年の、
穏やかな幸せがじんわり広がっていく様子が伝わってきます。

この曲調から次のことがわかります。

🌹ヴェルナー少年が、ゲーテの詩の
【バラを見てきれいだ】という気持ちに共感し、そこからふくらませたイメージ

あぁ、なんてきれいな薔薇なんだろう。
この世のものとは思えないくらいだ。
心がジーンとしちゃうなあ!
ずっと眺めていたいなあ!


【バラを見てきれいだ】と思った
シューベルト少年とヴェルナー少年、
それぞれのその気持ちが、
どのようにふくらんで、曲になったのかを理解することができました。

全く違う曲調の2曲の『野ばら』
ゲーテの詩に心を動かされたシューベルト少年とヴェルナー少年が、
深い愛情と尊敬の念を抱いて作曲したことは、
2曲の『野ばら』が、後世にまで残るドイツ歌曲の名曲となったことで、
うかがい知れるでしょう。
                        

🎼少年になって歌いましょう!

皆さんも、【少年になって】歌ってみませんか (^^♪

シューベルト少年の
♪ ルンルンした嬉しい気持ちと、
ヴェルナー少年の
💗じんわり広がる幸せな気持ち。

バラの美しさを、
全く違う曲調で表現する楽しみを、ご一緒に味わいましょう。


次回のコラムは、引き続き、
当教室でレッスンした、
ヴェルナー作曲『野ばら』の歌い方のポイントについて
特に、1、2、3番で《劇的に》変化していく歌詞の表現と、
曲調とは《正反対の感情》の表現について、ご紹介しています。

ご興味のある方は、是非、ご覧ください。

▼フランツ・シューベルト
(1797-1828年 オーストリア)について

初期ロマン派を代表する作曲家

31年の短い生涯でしたが、
600曲以上ものドイツ歌曲を作曲しました。

その数の多さに加えて、
音楽史上、意義深いこととして、シューベルトは、詩と音楽を融合することで、
詩の内容をより深く表現することに力を注ぎました。
その結果、歌は【歌曲】としての芸術作品に高められたのです。

その功績により、シューベルトは、「歌曲王」と称されました。

「歌曲王」の呼び名の通り、
シューベルトが作曲した歌曲の中でも、
特に有名で世界的にも広く知られている曲が『野ばら』の他にもいくつもあります。

『魔王』
『アベマリア』 
『音楽に寄せて』
『ます』
歌曲集『冬の旅 』より『菩提樹』
など・・・
▼ハインリッヒ・ヴェルナー
 ( 1800-1833年 ドイツ )  について

作曲家、主に、歌曲や合唱曲を作曲しました。オルガニスト、音楽教師。

歌曲『野ばら』は、
ヴェルナー自身が指揮者を務めていた合唱団の演奏会で初演されました。

          
今回のコラムにもお付き合いいただき、
ありがとうございました。
次回のコラム
ちいさな感動おおきな感動』も、よろしくお願いします。

梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪

大阪府吹田市千里丘の音楽教室です。 幼児(3歳)からシニアの方まで、随時ご入会を受け付けています。 現在、個人レッスンによる「ピアノ」「声楽」「チェロ」「ソルフェージュ(視唱、聴音、楽典など)」の4科目を開講しており、初心者、経験者、趣味で楽しみたい方、また音楽大学・音楽高校を目指したい方など様々な生徒さんが在籍されています。 ご一緒に音楽を楽しみませんか。
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