今回のコラムは、
当教室の大人の声楽科クラスで
レッスンしている曲、【ドイツ歌曲】の名曲『ローレライ』について、
生徒さんに学んでもらったことを中心に、
お話を進めていきます。
歌の表現がより豊かになるよう、理解を深めましょう。
🎼『ローレライ』は、ロマン派を中心として発展した【ドイツ歌曲】
世界的に有名な歌曲『ローレライ』は、
クラシック音楽19世紀ロマン派を中心として発展した【ドイツ歌曲】です。
『ローレライ』は、
【歌曲】ではなく、「民謡」だと思っている人も多いのではないでしょうか。
「民謡」は、特定の地域、職業の、
不特定多数の民衆によって自由に伝承されているうちに、自然に曲の形になった歌ですが、
『ローレライ』は、
著名な詩人の詩に、音楽家が曲を付けたので、
「民謡」ではなく、【歌曲】です。
世界的に広く有名な【ドイツ歌曲】は、
その曲名を聞けば、すぐに作曲者の名前が思い浮かびます。
▼【ドイツ歌曲】の名曲
※数多くの中から、一般的にもよく知られている曲を少しだけご紹介します。
『野ばら』『魔王』『菩提樹』『アヴェマリア』
→シューベルト作曲
連作歌曲『詩人の恋』より『美しい5月に』
歌曲集『ミルテの花』より『献呈』
→シューマン作曲
『ブラームスの子守歌』
→ブラームス作曲
『歌の翼に』
→メンデルスゾーン作曲
『御身を愛す』
→ベートーヴェン作曲
いかがでしょうか。
曲名と作曲者名が、
セットになっているかのように知られていますね。
誰もが名前を知っている、
クラシック音楽を代表する偉大な作曲家ばかりです。
では、
これらの名曲とともに、
長く親しまれ歌われてきた、
ドイツ歌曲『ローレライ』は、どうでしょうか。
曲は、世界的に広く知られていますが、
作曲者については、
すぐには思い浮かばないのではないでしょうか。
🎼『ローレライ』の作詞者はハインリッヒ・ハイネ
『ローレライ』の作曲者は知らないけれど、
作詞者なら知っている、
という人は、多くいらっしゃるでしょう。
作詞者は、ドイツの著名な詩人、
ハインリッヒ・ハイネ(1797-1856)。
詩人である一方で、
ジャーナリスト、思想家、社会活動家としても優れた資質を持ち、
鋭い政治批評や、批判的な詩作で、
ドイツ当局の監視対象となり、1831年にフランスに移住しました。
詩『ローレライ』は、
ハイネの詩集『歌の本』(1827年)の中の作品です。
詩集『歌の本』は、
ハイネの恋愛体験をもとに書かれたもので、
若者のほとばしる情熱、せつない苦悩、キラキラした喜びなどが、
生き生きと表現されています。
このハイネの詩集『歌の本』には、
『ローレライ』の他にも、
始めに、
▼【ドイツ歌曲】の名曲としてご紹介した
連作歌曲『詩人の恋』(シューマン作曲)、
『歌の翼に』(メンデルスゾーン作曲)
も含まれています。
情緒豊かで瑞々しいハイネの詩は、当時、
活躍していた作曲家たちの心を強くとらえ、
多くの曲が作られました。
詩に曲がつけられたことで、詩の内容が、
より深く表現された【ドイツ歌曲】の名曲として、今なお歌い継がれています。
▼【ドイツ歌曲】とは
《 ドイツ語の詩に曲を付け、詩の内容を歌で深く表現することで、詩と音楽が融合し、
より一層高度な芸術作品に高められた歌曲》のこと。
ロマン派文学の著名な詩人、
ゲーテ、シラー、ハイネらの詩に感化され、
多くの作曲家が曲を付けました。
🎼『ローレライ』の作曲者はフィリップ=フリードリヒ・ジルヒャー
ハイネの詩『ローレライ』に曲をつけて、
【ドイツ歌曲】の名曲を生んだ作曲者は、
誰でしょう。
フィリップ=フリードリヒ・ジルヒャー(1789-1860)です。
ドイツの歌曲作曲家、合唱指揮者、音楽監督・教育者として活躍しました。
『ローレライ』は、元は、合唱曲として作曲されています。(1838年)
ジルヒャーは、
作曲家としては著名ではありませんが、
市民への音楽教育の普及に力を注ぎ、
忘れられ失われつつあった民謡を探し集め、
歌曲や合唱曲に編曲して後世に残したことが、
大きな功績として知られています。
🎼ドイツ歌曲『ローレライ』の魅力
【ドイツ歌曲】の名曲といえば、
クラシック音楽を代表する、
偉大な作曲家たちの作品、というイメージがある中で、
それらの曲の数々と肩を並べて、
音楽教育に熱心に取り組んだジルヒャーが作曲した『ローレライ』が、
世界的に広く親しまれる名曲として
歌い継がれている魅力を探ってみましょう。
🎹 魅力①メロディー、リズムが覚えやすく、心地良い
メロディー、リズムがシンプルなうえに、テンポもゆったりとしていて、
覚えやすく、誰でも気軽に楽しんで歌えます。
優しく情緒豊かなメロディーが、
しみじみと心に染みわたり、穏やかな気持ちになります。
🎹 魅力②ハイネの詩に「ローレライ伝説」
「ローレライ」とは、
ドイツ西部、ライン川中流の
渓谷の東岸にそびえる奇岩(高さ132m)の名前です。
ローレライ奇岩がそびえる辺りは、
川幅が少し狭くなり、流れも急になるため、
過去には、多くの船が遭難しました。
そこから生まれたのが、「ローレライ伝説」です。
▼「ローレライ伝説」とは
不実な恋人に絶望して、
ライン川に身を投げた乙女が、
妖精となって、美しい声で歌を歌って船乗りを誘惑し、船を遭難させる、
という伝説です。
ハイネは、この「ローレライ伝説」をもとに、
妖精となった乙女の妖しい魅力と、
ライン川の優雅な流れとを、
絶妙に融合して表現した詩『ローレライ』を書きあげました。
🎹 ハイネの詩『ローレライ』の日本語歌詞&意味
ハイネの詩『ローレライ』を、
広く日本で歌われている近藤朔風の日本語歌詞で、読んでみましょう。
※日本では、明治42年に『女性唱歌』に掲載されたのが初め。
明治時代に作詞された歌詞がそのまま、
現在でも変わらず歌い継がれているため、
意味がわかりにくいところがあります。
歌詞の下に記入した現在の意味を確認しながら読んでください。
少し怖く感じる「ローレライ伝説」が、
ライン川という雄大な力によって包み込まれ、
溶け合うことで、心地良くも感じられる詩です。
🎹 魅力③ドイツの人々のライン川への愛着と誇り
ハイネの詩から、
ハイネ自身の心の奥には、
ライン川への愛着と誇りがあることがわかります。
そして、ライン川への愛着と誇りが、
自国ドイツへの愛国心となって、伝わってきます。
▼ライン川とは
ヨーロッパで2番目に長い川(1320キロ)。
スイス、オーストリア、フランス、
ルクセンブルク、リヒテンシュタイン、
ベルギー、イタリア、ドイツ、オランダの
9カ国を流れる。
水源は、スイスアルプスの奥地から流れ出る雪解け水。
国際河川として、ヨーロッパの交通、経済に重要な役割を果たしている。
親しみを込めて「父なる川」と呼ばれている。
※ヨーロッパで一番長いドナウ川は
「母なる川」と呼ばれている。
ライン川全長1320キロのうち、
ドイツを流れるのは約半分の、
698kmもあります。さらに、中流の、
マインツ〜コプレンツの間の約65kmが、
世界遺産に登録されています。
奇岩「ローレライ」は、
この世界遺産の区間にあり、川沿いには歴史的文化価値のある30余りの古城、
美しい街並みやブドウ畑が広がっています。
ライン川は、
ドイツの人々の暮らしを支える交通や経済の
重要な役割を担っているだけではなく、
その雄大な流れや美しい景観で、
人々の心を魅了し、エネルギーの源となっているのです。
世界遺産のライン川にそびえる
奇岩「ローレライ」にまつわる伝説を、
ハイネの妖しい魅惑に満ちた詩と、
ジルヒャーの心地良く響くメロディーとの
融合で表現されたドイツ歌曲『ローレライ』。
ドイツの人々にとっても、
愛着と誇りを感じる歌として、
いつまでも歌い継がれていくことでしょう。
そして、
その美しい言葉とメロディーで表現された、
雄大な自然への敬虔な気持ち、
平穏であることの感謝の気持ちが、
世界中の人々に、
広く共感をよんでいるのではないでしょうか。
🎼ドイツ演奏旅行で、奇岩「ローレライ」も見てきました!
🎹ドイツ演奏旅行 ( 2015年 )
ドイツの、世界に誇る名コンサートホール、
「ベルリンフィルハーモニーホール」。
9年も前になりますが、
私は、その大ホールのステージに立ち、歌いました!
ベルリンフィルハーモニーホールは、
世界的に高名な、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の本拠地で、
世界有数の大変素晴らしいホールです。
目を引く黄色い
サーカスのテントのような斬新な外観に、
大ホールのステージは、
360度に設けられた客席の中央にあり、
後ろからも鑑賞できるアリーナ型。
様々な工夫がなされた音響に関しては、
世界トップクラスと称されています。
まさに、近代コンサートホールの傑作、
と世界的に絶賛されているベルリンフィルハーモニーホール。
クラシック音楽に携わる者が、
そのステージに立ってみたいと願っても、
世界超一流レベルでなくては実現が難しい
ベルリンフィルハーモニーホールで歌う、
素晴らしい機会に恵まれたのは、
2015年6月30日
ドイツと日本の、音楽を通しての交流を目的として開催された
『日独親善コンサート』のステージでした。
当音楽教室代表で、私の父でもある梅谷邦彦が、
総監督、指揮を務めていた吹田混声合唱団とカナリア・コーラスが共に、
日本とドイツとの親善を担って出演し、
私も、合唱団の一員として歌いました。
『日独親善コンサート』最終ステージ
演奏/ 日本、ドイツ合唱団 3団体合同
指揮/ 梅谷邦彦 ピアノ/ 梅谷陽子
世界最高峰のステージで、
日本の歌と、
ドイツの偉大な作曲家ベートーヴェンのメドレーを合唱し、
音楽を通して、「親善」のお役目を果たせたことは、幸せな経験でした。
この特別な「親善」演奏会の感動が、
その場限りではなく、続けて、経験を生かしていけるように心がけています。
日々の生徒さんとのレッスンや、音楽を通しての活動で、共に歌い、演奏し、聴き、
音楽の素晴らしさを共有することの感動や心地良さを伝え、
笑顔が少しづつ繋がって、
世界中に広がっていくことを願っています。
🎹奇岩「ローレライ」も、しっかりと見てきました!
無事に演奏会を終え、
その後、奇岩「ローレライ」も、
しっかりと見てきました!
お昼間だったからでしょうか。
妖精の美しい歌声は聴こえては来ず、、、
誘惑されずに、無事にライン川を下りました。(^^♪
🎼初心者の方もご一緒に歌いましょう!
魅力がたくさん詰まったドイツ歌曲
『ローレライ』は、【歌曲】でありながら、
親しみやすく、ほっこりした雰囲気が感じられる曲で、
歌が初めての方でも、心地良く楽しく歌えます。
当教室で、ご一緒に歌いませんか。
お待ちしております。
今回のコラムにもお付き合いいただき、
ありがとうございました。
次回のコラム『ちいさな感動おおきな感動』も
よろしくお願いします。
梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪