『ムーンリバー』は、
時代を超えて、世界中で愛され続けている名曲です。
題名と同じ、「 ♪ ム~ンリバ~ ♪ 」で始まるこの歌を、
皆さんも、耳にしたことがあるでしょう。
『ムーンリバー』の
しみじみとした味わい深い情感のメロディを聴いていると、
心地良い温かさが胸に広がっていき、
気付くと口ずさんでいた、ということもあるでしょう。
印象深く心に残るフレーズは、
シンプルで覚えやすいうえに、
音域が〈1オクターブと1音〉だけで作られているので、
無理をせずに声を出せますね。
当教室でも、声楽クラスのレッスンで、
生徒さんが穏やかな微笑みを浮かべながら、歌っています。
『ムーンリバー』の
切なくも安らぎのあるメロディが、
〈1オクターブと1音〉だけで作られているのは、
《〈1オクターブと1音〉だけで作らなければならなかった》のですが、
そのわけは、いったい何でしょうか。
『ムーンリバー』が作曲された背景や、
曲の内容を知ることで理解を深め、より表現豊かに歌いましょう。
🎼『ムーンリバー』は映画『ティファニーで朝食を』の主題歌
『ムーンリバー』は、
ハリウッドの妖精として絶大な人気を博した女優、
オードリー・ヘップバーン主演の映画、
『ティファニーで朝食を』(1961年 アメリカ)の主題歌です。
オードリー自身がギターを弾きながら、
『ムーンリバー』を歌う映画のシーンは、
映画史に残る名シーンとして有名です。
🎹アカデミー歌曲賞、グラミー賞の最優秀賞を受賞した名曲
映画の大ヒットとともに、
『ムーンリバー』は、
映画が公開された年の1961年、
第34回アカデミー歌曲賞を受賞、
翌年の1962年、
第4回グラミー賞でも、
最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀編曲賞を受賞しました。
🎹世界的なスタンダードとして愛され続ける
『ムーンリバー』は、
オードリーが『ティファニーで朝食を』の主題歌として歌って以来、
時代を経ても変わらず、65年に渡り、
世界的なスタンダードとして愛され続けています。
これまでに、多くのアーティストにカバーされ、演奏されてきました。
カバー曲の数は、
他の名曲と比べても特に多く、数百曲を超えると言われています。
カバー曲のジャンルや演奏スタイルも様々です。
ポップス
ロック
ジャズ
ボサノヴァ
クラシック 他
ヴォーカル
ピアノ(ソロ、弾き語り)
ギター(ソロ、弾き語り)
チェロ
ヴァイオリン
各種楽器のトリオなど
吹奏楽 他
日本人アーティストによるカバー曲も数多くあります。
平井堅
手嶌葵
持田香織
ザ・ピーナッツ
葉加瀬太郎(ヴァイオリン)
村治佳織(ギター) 他
🎼映画『ティファニーで朝食を』どんな映画
『ムーンリバー』を主題歌とする、
映画『ティファニーで朝食を』の内容をみていきましょう。
🎹映画『ティファニーで朝食を』登場人物
♬ ホリー・ゴライトリー
(オードリー・ヘップバーン)
裕福で自由な生活を手に入れるため、
夜の社交パーティーに通いつめ、
セレブ男性との交流にいそしんでいます。
朝帰りの途中、
ニューヨーク5番街のティファニーの前にタクシーで乗りつけ、
コーヒーを片手にパンをかじる(食べる)のが日課となっています。
♬ ポール・ヴァルジャック
(ジョージ・ペパード)
ホリーの高級マンションに引っ越してきた、作家志望の青年。
裕福なマダムの援助を受けている。
華やかで天真爛漫なホリーに惹かれる。
ふたりがお互いに惹かれあい、
恋愛観、人生観を見つめなおしていくストーリーが、
ラブ&コメディなタッチで描かれています。
🎹『ティファニーで朝食を』映画タイトルの意味
『ティファニーで朝食を』
このタイトルを聞いただけで、
〈 オシャレでステキな、ワクワクするようなイメージ 〉
が浮かんできませんか。
まず、【ティファニー】と聞くだけで、多くの女性は心が踊ります。
【ティファニー(Tiffany & Co.)】とは、
1837年にニューヨークで創業された、
世界的に有名な、歴史ある高級ジュエリーブランドの名前です。
〖キング・オブ・ダイヤモンド〗
と呼ばれるほどの高品質な宝石を扱い、
優れた技術、洗練されたデザインで、世界中で愛されています。
映画の主人公ホリーは、
セレブ男性と結婚することで、
〈 高級ジュエリーブランドの『ティファニーで朝食を』食べられるくらいのご身分 〉
になることを、人生の目標としています。
着飾って、華やかに奔放にふるまい、
男性に色目を使うホリーですが、
それは、過去のつらい経験ゆえのこと(※詳しくは、映画をご覧ください。)。
これからの人生は、
裕福に自由に暮らすことで、心の平安を得たいと願っているからなのです。
煌めきを放ってそびえたつ壮麗な、
【ニューヨーク5番街のティファニー本店】の前に立ち、
ファッショナブルなドレス姿でパンをほおばるホリー(オードリー・ヘップバーン)が、
チャーミングですね。
しかし、
ポールとの出会いで、人生の価値観が変わっていきます。
ホリーが本当に求めているのは、
〈富と自由〉ではなく、
〈愛し愛されること、孤独ではないこと〉だと気付くのです。
【ティファニー(Tiffany & Co.)】のブランド価値も、
単に〈高級・高価である〉だけではありません。
1886年に発表された婚約指輪は、
世界で最も象徴的な〈愛のシンボル〉として確立され、
以来、
【ティファニー(Tiffany & Co.)】のジュエリーを身につけることは、
〈 愛・歓び・幸福・洗練された美しさ 〉
といった普遍的な価値の象徴であり続けています。
【ティファニー(Tiffany & Co.)】は、
〈 愛に満たされた幸せな笑顔の私 〉をイメージさせるのです。
映画のタイトル『ティファニーで朝食を』は、
ホリーの人生の夢と希望です。
さて、ホリーは、
本当の愛と幸せを見つけることができるのでしょうか。
結末は、是非、映画をご覧ください。
🎼『ムーンリバー』曲の内容
映画『ティファニーで朝食を』では、
ホリーが、住んでいる高級アパートの部屋の窓辺に腰かけ、
ギターを弾きながら『ムーンリバー』を歌います。
一語一語かみしめるように、
しっとりと情感豊かに歌う、
オードリー・ヘップバーンが印象的な、名シーンです。
『ムーンリバー』で、
ホリーが何を歌っているのか、歌詞を読んでみましょう。
🎹『ムーンリバー』の歌詞:和訳
『ムーンリバー』歌詞
作詞:ジョニー・マーサー(※原詞は省略します。)
ムーンリバー 遙か大きな川よ
私はいつか堂々とあなたを渡るわ
あぁ、あなたは夢を見せてくれるし 壊してもしまう
あなたがどこへ行こうと
私はあなたについていくわ
ふたりは世界を見るために あてなく旅をする
見るべき世界は何と多いのでしょう
私たちは同じ虹の終わりを追って
あの曲がり角で待ち合わせましょう
私の大切な友よ
ムーンリバーと私
曲のタイトル『ムーンリバー』は、
作詞者ジョニー・マーサーの故郷、アメリカ ジョージア州を流れる川〖バック・リバー〗に、
月の光が美しく映っている様子をイメージして、名付けられました。
【ムーン・リバー】を人生に例え、
不安や恐れを抱きつつも、
愛と幸せを求めて進んでいこうとする歌詞です。
曲の大ヒット以来、
〖バック・リバー〗は、【ムーン・リバー】と呼ばれるようになりました。
🎼『ムーンリバー』曲の特徴
次に、『ムーンリバー』の曲の特徴をみていきましょう。
🎹音域が〈1オクターブと1音〉だけで作られている
『ムーンリバー』のメロディは、
シンプルで覚えやすく、
川の流れをイメージさせるゆったりとした心地良いテンポです。
そして、最大の特徴は、
【音域が〈1オクターブと1音〉だけで作られている】点です。
そのため、歌いやすく、
自然に口ずさむように歌うことができるでしょう。
🎹音域は〈1オクターブと1音〉でなければならなかった
『ムーンリバー』の作曲者ヘンリー・マンシーニは、
【〈1オクターブと1音〉だけで作曲する】
という条件のもと、
この美しく情感あふれるメロディを生みだすまでに、
丸々1ヵ月の間、苦心しました。
『ムーンリバー』は、なぜ、
【〈1オクターブと1音〉だけで作曲しなければならなかった】のでしょうか。
それは、
主題歌となる『ムーンリバー』を歌う、
映画の主演女優オードリー・ヘップバーンの声域だったからです。
🎹オードリーだからこそ生まれた『ムーンリバー』
ヘンリー・マンシーニは、後に、
「オードリーだからこそ『ムーンリバー』が生まれた。」
と語っています。
当初、オードリー自身、歌唱力に自信がなく、
歌うことをためらっており、
歌唱シーンは吹き替えも検討されました。
ですが、『ムーンリバー』のシーンは、
主人公ホリーが、思うようにいかない人生に思いを馳せ、
自分の内面と向き合いながら歌う、
映画の最も重要なシーンとなる場面です。
〈 主演のオードリーが歌わなければ、大切なことは伝えられない 〉
と考えたマンシーニは、
オードリーの声域に合わせた〈1オクターブと1音〉だけで、
川に映る月の光のように、
穏やかに艶美に揺れる静かな、
しかし確かな光、希望を表現する曲を生み出しました。
説得されたオードリーは、
場合によっては、
女優としての評価を下げることになりかねない挑戦を、引き受けました。
歌唱とギター演奏の特訓を受けたオードリーは、
見事にホリーの内面を表現する演奏を成し遂げました。
🎹歌唱シーンは映画史に残る名シーンに
オードリーがギターを弾きながら『ムーンリバー』歌うシーンは、
映画史に残る名シーンとして、
人々の心に深くしみ込んでいます。
夜はスタイリッシュなドレスでパーティー三昧、
朝帰りのティファニー本店前でパンにかぶりつく、
奔放でイキイキとしたホリーとはうってかわって、
ラフな格好で、どこかうつろで寂しげな表情をし、
か細く儚い声で切なく歌うホリーが、
本当のホリーなのだと、映画を観ている人にわかるシーンです。
同じアパートの住人で、ホリーに恋する小説家志望の青年ポールが、
小説の文章をタイプし始めると、ホリーの歌声が聞こえてきます。
ポールがタイプした小説の始まり文
僕の友達
昔、とても美しく、とても臆病な女の子がいました。
彼女は、名前のないネコの他には 独りぼっちで暮らしていました。
※ホリーは名前のないネコを飼っています。
ポールは、ホリーが本当は、
〈 孤独で寂しい自分をしまい込み、強がっている 〉
のだと知っていたのです。
セレブ男性との結婚をもくろみ、着飾って遊び暮らしていながら、
いまだ富も愛も幸福も手に入れていない現実。
言葉(歌詞)では、
「私はいつか堂々とあなたを渡るわ」
「私たちは同じ虹の終わりを追って」
と、夢と希望を歌っているのは、
自分自身を勇気づけようとしているからなのですね。
オードリーは、
不安に押しつぶされそうなホリーの内面を、
歌い方と声の表情、顔の表情で、巧みに表現しています。
後に、作曲者マンシーニは、
「オードリーは、『ムーンリバー』を完璧に理解して歌った。
数えきれないほどのカバー曲があるが、
彼女以上の『ムーンリバー』はなく、文句なく最高と言えるでしょう。」
と評しています。
『ムーンリバー』は、
オードリーの歌唱だったからこそ、
アカデミー歌曲賞、グラミー賞を受賞し、世界中で愛される名曲となったと言えるでしょう。
それは、
《〈1オクターブと1音〉しか声域がない、歌唱に自信がない 》
ことを超越する、
曲に対する高い理解力と感受性
それを表現として伝える力
が、オードリーにあったこと、
そして、すでにハリウッドのスターとして活躍していた、
主演女優としてのオードリーの覚悟がなさる技だったのでしょう。
歌 / オードリー・ヘップバーン
🎼『ムーンリバー』歌い方のアドバイス
では、歌うときの技術的な注意点をアドバイスします。
🎹3拍子のリズムを意識しましょう
『ムーンリバー』は3拍子の曲です。
3拍子のリズム:強-弱-弱
を意識して歌いましょう。
アクセントをつけて、しっかりと声を出します。
1拍目を出した後は、流れるようになめらかにつなげます。
⇩
3拍子を意識して歌うことで、
曲全体を、
月の光が川に映って揺らいでいるような優雅さを表現します。
🎹音の跳躍を意識しましょう。
『ムーンリバー』は、
音域〈1オクターブと1音〉の中での音の跳躍が、とても多い曲です。
「 ♪ ム~ンリバ~ ♪ 」の曲の歌い始めから、5度の跳躍があり、
その後、5度上、5度下、7度上と何回も跳躍します。
音の跳躍の効果:曲に躍動感や緊張感をもたらし、印象を強める
を意識して歌いましょう。
「 ♪ ム~ンリバ~ ♪ 」の箇所です。
ホリーの明るい希望や、川の雄大さを表現しています。
ホリーの不安や切なさを表現しています。
⇩
それぞれの音の跳躍効果を意識して歌うことで、
ホリーの内面の光と影・月の光と夜の闇を表現します。
🎼当教室で『ムーンリバー』を歌い、ご自身の人生を表現しませんか
映画の主題歌としての『ムーンリバー』は、
ホリーの内面を表していますが、
数あるカバー曲の演奏表現は、
様々であることからもわかるように、
ひとりひとりの人生にあてはめて歌える歌詞です。
川に映る月の光を思い浮かべながら、
あなたの今までの人生、これからの人生に思いを馳せ、
あなただけの『ムーンリバー』を表現してみませんか。
当教室のレッスンで、豊かな時間を過ごしましょう。
歌 / アンディ・ウィリアムス
『ムーンリバー』のカバー曲の中で、世界的に最も有名。
しっとりと柔らかく温かみのある表現で、
聴くと穏やかな気持ちになれる『ムーンリバー』
▼オードリー・ヘップバーン
(1929-1993年 イギリス ハリウッド女優)
1953年 『ローマの休日』でハリウッドデビューし、アカデミー主演女優賞を受賞。
〈ハリウッドの妖精〉と称えられた美貌と気品、優雅さで、
時代を超えて世界中の人々を魅了し続けています。
代表作は他に、『麗しのサブリナ』『マイフェアレディ』『シャレード』など。
58歳から63歳で亡くなるまで、
ユニセフ親善大使として、国際連合児童基金(ユニセフ)の援助活動に
献身的に従事しました。
▼ジョニー・マーサー
(1909-1976年 アメリカ 作詞家・作曲家・歌手)
20世紀のアメリカ音楽界の巨人。
1,500曲以上の作詞、映画音楽、ブロードウェイ劇も手がける。
グラミー賞2回、アカデミー賞4回、ゴールデングローブ賞2回受賞、アカデミー特別功労賞理事会賞。
代表作は他に:『枯葉』『追憶の日々』『シャレード』『酒とバラの日々』など
キャピトル・レコードを共同設立。
歌手としても活躍し、1200万枚以上のレコードを売り上げる。
▼ヘンリー・マンシーニ
(1924-1994年 アメリカ 作曲家・編曲家)
20世紀のアメリカ映画音楽の巨匠。
グラミー賞20回、アカデミー賞4回、ゴールデングローブ賞1回受賞の歴史的な偉業を成し遂げた。
代表作は他に:『ひまわり』『ピンクパンサー』『刑事コロンボ』『ロミオとジュリエット』など。
今回のコラムにお付き合いいただきありがとうございました。
次回のコラム『ちいさな感動おおきな感動』も
よろしくお願いいたします。
梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪

