🎼『悲愴』ソナタは、全32曲の中の《傑作》!
ベートーヴェン ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13『悲愴』は、
ベートーヴェンが作曲したピアノソナタ
全32曲の中でも特に名高く、
第14番『月光』第23番『熱情』と合わせて、
「ベートーヴェン の三大ピアノソナタ」と呼ばれています。
ピアノを学ぶ人ならば、
誰もが必ず弾いてみたいと願う憧れの曲で、
当教室でも、レッスンしています。
前回のコラムでは、
ベートーヴェンの音楽が、
【 クラシック音楽史上で最も重要な革新】となったわけと、
ベートーヴェンが生涯、情熱を注ぎ続けて、
数々の新しい独創的な、独自の音楽作品を生み出した背景に、
【奇跡的】に重なった、3つの事柄についてお話ししました。
ご興味のある方は、是非、こちらもご覧ください。
※コラムの最後にリンクがあります。
今回は、
ベートーヴェンが作曲した、
名曲ばかりがズラリと並ぶピアノソナタの中でも、
特に、『悲愴』ソナタが《傑作》と言われている背景を知り、理解を深めることで、
より深みのある感情表現につなげていきましょう。
🎼ピアノソナタ前期(1782-1800年)作品
ベートーヴェンにとって【ピアノソナタ】は、
ひとりの人間としての様々な感情を、
最大限に表現することができる重要な作品でした。
並々ならぬ情熱を注いで、全32曲が作曲され、
作曲された時期や、作風によって、
前期、中期、後期に分けられています。
【ピアノソナタ】第11番までの作品が、前期作品とされています。
※時期については、いくつかの考え方により、違いがありますが、あくまで便宜上のものです。
ここでは、1800年までに作曲された第11番までとします。
この時期は、
ハイドンやモーツァルトが確立した
古典派(18世紀中ごろ〜19世紀はじめ)の音楽様式の影響を受けつつも、
前期の終わりごろには、
徐々に、ベートーヴェン独自の自由な発想が、
作品に表れてくるようになりました。
🎼『悲愴』は、ベートーヴェンピアノソナタ前期作品の頂点
ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13『悲愴』は、
《前期11作品の中の頂点》と言われる《傑作》で、
ピアニストとして活躍していたベートーヴェンが、
作曲家として世の人々に認められることになった、重要な作品です。
『悲愴』が作曲されたのは、1798-1799年にかけてですが、
その直前、
1789-1795年(18世紀終わり頃)に、
社会の歴史的な大転換となったフランス革命が、起きています。
貴族社会が崩壊し、民衆の社会への転換期の中で、
ベートーヴェンは、貴族の娯楽のための音楽ではなく、
自由な発想で、
心にあふれ出てくる感情を表現するために、
自身と民衆のための、独自の音楽を作り上げていきます。
🎼『悲愴』ソナタが、前期作品の頂点と言われるわけ
ピアノソナタ第8番『悲愴』が、
《前期11作品の中の頂点》と言われるのは、主に、ふたつの理由からです。
🎼わけ①『悲愴』は、ベートーヴェン自身の命名です
ピアノソナタ第8番に付けられている『悲愴』という曲名は、
ベートヴェン自身が付けた(もしくは、付けることを許可した)とされる
数少ない曲名のうちのひとつです。
ピアノソナタに付けられているの曲名のうち、
ベートーヴェン自身が名付けたものは、
第8番『悲愴』と、第26番の『告別』の、たった2曲しかありません。
♪上記2曲の他に、ピアノソナタに付けられている曲名
第12番『葬送』
第14番『月光』
第15番『田園』
第17番『テンペスト』
第21番『ワルトシュタイン』
第23番『熱情』
第24番『テレーゼ』
第29番『ハンマークラヴィーア』
広く親しまれているこれらの曲名は、
実は、ベートーヴェン自身が付けたのではないのです。
驚きませんか。
ベートーヴェンが名付けたのではないなら、
いったい誰が、どんな理由で名付けたのでしょうか?
という疑問がわいてきます。
その疑問については、
以前のブログ記事にて詳しく解説していますので、
ご興味のある方は、是非、お読みください。
※コラムの最後にリンクがあります。
全32曲あるピアノソナタの中で、
【ベートーヴェン自身が名付けた】たった2曲のうちの1曲が、
ピアノソナタ第8番『悲愴』。
『悲愴』には、
ベートーヴェンの、特別に強い魂が込められているのです。
その魂の発露の結果として、
《前期11作品の頂点》と言われるまでの『悲愴』ソナタが、作曲されたのです。
🎹『悲愴』ソナタに込められた魂とは
ベートーヴェンが、
作曲家として意欲的に活動し始めた矢先に、
難聴の症状に悩まされるようになりました。
音楽家として致命的な、大きな不運に襲われたのです。
『悲愴』ソナタは、そのころに作曲されました。
「悲愴」の言葉の意味は、《【深い】悲しみ 》です。
ただ「悲しい」の一言では言い尽くせない、
つらい、苦しい、胸が痛い、せつない、憂い、悔しい、やりきれない・・・
様々な「悲しい」感情が入り混じって渦巻いている、
耐えがたい不安、苦悩を抱えていたことが想像できます。
『悲愴』という曲名は、ベートーヴェンの心そのものです。
ですが、不思議なことに、
ピアノソナタ第8番『悲愴』を聴くと、
《【深い】悲しみ 》と同時に、
全く別のイメージが、曲全体に流れているように感じるのです。
《 力強さや情熱 》さらには
《 躍動感、明るさ 》さえも感じます。
ピアノソナタ第8番『悲愴』は、
ただ《【深く】悲しんでいる》だけを表した曲ではない、のではないでしょうか。
音楽家としての将来に不安を感じながらも、
それを振り払い、
《前に進んでいこうとする決意》が込められているように感じるのです。
🎼わけ② 今までにない自由で新しい発想を盛り込んだ
《前に進んでいこうとする決意》で作曲された『悲愴』ソナタは、
今までにない斬新で自由な発想のソナタとして、人々の驚嘆と絶賛を得ました。
ピアノソナタ第8番『悲愴』は、
「序奏部」といわれる部分から始まります。
【ソナタ】といわれる音楽形式は、
通常、「第一主題(テーマ)」から始まります。
その曲全体のイメージを決めるための、
最も重要な役割を持ったフレーズだからです。
ですが、ベートーヴェンは、
最も重要な役割の「第一主題(テーマ)」の前に「序奏部」を置き、
その後に「第一主題(テーマ)」を続けました。
これは、
今までのソナタでは考えられなかった、
全くの新しい独自の発想でした。
ベートーヴェンは、
この「序奏部」に、
《前に進んでいこうとする決意》を込めたのです。
困難に立ち向かい、苦しみを乗り越えて、先に進んでいくためには、
強い意志と情熱を燃やし続けるしかなかったベートーヴェン。
その魂の計り知れない強さは、
今までの枠組みの中には、決しておさまらなかったのです。
これを機に、
作曲家として広く認められることになったベートーヴェンは、
次々に、独自の音楽を作曲していくことになるのです。
ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13『悲愴』
オリジナル版楽譜:表紙
ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13『悲愴』
オリジナル版楽譜:序奏部
ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13『悲愴』
オリジナル版楽譜
出版:ウィーン・シュタイナー社 1810年
初版は、ウィーンのエーダー社より1799年に出版されました。
その11年後に出版されたオリジナル版(全20頁)です。
梅谷音楽学院 ~展示資料より~
※「オリジナル版」とは
作曲家が書いたことのみを印刷したオリジナルの楽譜のこと。
一方、「解釈版」と呼ばれるものは、作曲家が書いたことの他にも、
色々と解釈を書き加えて、わかりやすくした楽譜のことです。
🎼革新的作曲家、誕生!のソナタ
ベートーヴェンは、
確立された様式・形式に基づいた曲ではなく、
誰も聴いたことがないような、
斬新で、劇的に展開していく音楽を、築き上げていきました。
ベートーヴェンの魂の叫びから生み出し続けられた、数々の音楽作品は、
【 クラシック音楽史上で最も重要な革新】
と言われています。
その始まりが、
ピアノソナタ第8番『悲愴』です。
革新的作曲家ベートーヴェン誕生!のソナタなのです。
🎼ベートーヴェンの魂を受け取りましょう。
魂の叫びをエネルギーに変えて生み出された
ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13『悲愴』は
今もなお、ベートーヴェンの
《【深い】悲しみ》
《前に進んでいこうとする決意》
を同時に叫び続けています。
ベートーヴェンの魂の叫びを受け取って、
私たちも、前に進んでいくエネルギーに変えましょう!
是非、一度、聴いてみてください。
そして、『悲愴』ソナタを弾くことを目標に、ピアノを始めてみませんか。
▲当コラム一番上のピアノ画像についての解説
1816年製:ブロードウッド・ピアノ
ベートーヴェンは1818年に、ロンドンのジョン・ブロードウッドのピアノ会社から、
画像と同じピアノを贈呈されました。音域は6オクターブ。
オリジナルは、ブダペストのハンガリー国立博物館にあります。
今回のコラムにもお付き合いいただき、
ありがとうございました。
次回のコラム『ちいさな感動おおきな感動』も
よろしくお願いします。
梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪
🎼関連コラムのご紹介
前回のコラムでは、
ベートーヴェンの音楽が、
【 クラシック音楽史上で最も重要な革新】となったわけと、
ベートーヴェンが生涯、情熱を注ぎ続けて、
数々の新しい独創的な、独自の音楽作品を生み出した背景に、
【奇跡的】に重なった、3つの事柄についてお話ししました。
ご興味のある方は、是非、こちらもご覧ください。
コラム『まぼろしの月だった?』は、
『ピアノソナタ第14番』の
『月光』という題名は、ベートヴェン自身がつけたのではなかった!!!
では、いったい誰が、いつ、名付けたのでしょうか?というお話です。
ご興味のある方は、こちらもどうぞ、ご覧ください。