シンコペーションの名曲:ベートーヴェン、ドビュッシー・・・圧倒的エネルギーの源:クラシック音楽

音楽 ちいさな感動 おおきな感動

シンコペーションのリズムは、
音楽を活性化させるエネルギーを持っています。
圧倒的な躍動感や緊張感、高揚感を生み出すからです。

▼シンコペーションとは

意図的に、強拍と弱拍の位置を変え、
本来のアクセントとは違う場所にアクセントを置くことです。

これにより、本来は、弱拍にあたる音が強調されることになるので、
私たちが認識している拍の流れが、前や後ろにズレる感覚になります。


🎼なぜ、意図的に、アクセントの位置をズラすのでしょうか。

メロディーが、
始めから終わりまで一貫していて、変わらず通常のリズムカウントで流れていくと、
曲は安定していて落ち着いた運びになります。
ですが、変化がないということは、単調で退屈にも感じますね。

そこで、シンコペーションを使って、
拍の強弱の位置を変えると、
リズム運びの予測が裏切られて、
「!!!」という気持ちの高ぶりが起こります。

曲に緊張感が生まれて、
メロディーが引き締まり、前へ前へと流れるエネルギーに変わり、躍動感であふれます。

それが、私たちに、
ウキウキワクワクした爽快感や、
ドキドキした高揚感を感じさせるのです。

絶大な躍動感を放つ源となっているシンコペーションのリズムについて、
その躍動感が生まれるわけと効果について、
詳しく知りたい方は、是非、前回のコラムをお読みください。
※コラムの最後にリンクがあります。

今回は、引き続き、シンコペーションについて、
シンコペーションを効果的に用いて作曲された、クラシック音楽の名曲をご紹介します。
  

🎼シンコペーションといえば、ジャズ

シンコペーションを効果的に用いて作曲された、クラシック音楽の名曲ご紹介の前に、
シンコペーションを主体として作られている音楽ジャンルについてお話します。

音楽には、色々なジャンルがあり、
リズムやテンポ、音階、使われる楽器、生まれた場所、生まれた時代などにより分けられています。

その中で、シンコペーションのリズムを特徴のひとつとするジャンルがあります。
それは、ジャズです。

ジャズを演奏したり、聴いたりしていると、
自然に体が動き出してしまうような躍動感を感じますね。
いわゆるリズムの「ノリ」というものがあるのです。

なぜ、リズムに「ノリ」があるのでしょうか。
それは、ジャズの曲が、シンコペーションを主体として作られているからです。

前回のコラムでご紹介した
映画『スティング』の主題歌『エンターテイナー』は、
曲の始まりから終わりまで、
次から次へと現れるシンコペーションの連続で、体は「ノッて」動き続けます。

シンコペーションにより、
本来は、弱拍にあたる音が強調され、
通常の拍の流れやアクセントが前や後ろにズレます。

それによって、
躍動感に加えて、緊張感、疾走感などが生み出され、気持ちが高ぶっている状態になります。

それがそのまま、ジャズの躍動感になっているのです。

他に、
ロックやポップスといったジャンルでも、
躍動感、緊張感、疾走感を生み出すシンコペーションは、とても重要な要素になっています。

  

🎼クラシック音楽のリズム運びの特徴

では、クラシック音楽では、
シンコペーションはどのように使われているのでしょうか。

クラシックのリズム運びは、
大部分は、安定した一定の規則的なリズムで流れていて、
その中に、シンコペーションの予測不能なリズムが、一部、効果的にミックスされています。

「クラシックを聴くとリラックス効果があり、ストレスが軽くなる」とよく言われます。

それは、
リズムの安定感と、バランスよくミックスされた程よい変動が脳に作用して、
リラックスした心地よさを感じるホルモンが出されるからです。

 

🎼シンコペーションを効果的に使って作曲されたクラシックの名曲

クラシック音楽では、
大部分の安定した一定の規則的なリズムと、
一部の予測不能なシンコペーションのリズムとが、曲の中で対比的な効果を生み、
その変化の落差によって、心が強く揺さぶられます。

              

♪ クラシック音楽における古典派の時代(18世紀中ごろ~19世紀はじめ)のシンコペーション

クラシックにおける古典派の時代は、
まだ、シンコペーション主体のジャズの前身となる音楽ジャンル(ラグタイムといいます※後に説明あり)が生まれていませんでした。
ですが、すでに、シンコペーションを効果的に使って作曲された名曲が、数多くありました。

古典派を代表する作曲家、
モーツァルトベートーヴェンの曲の中にも、
シンコペーションが強く印象に刻まれる曲がたくさんあります。
今回、その中から、1曲ずつご紹介します。

音楽を活性化させるエネルギーを持つ
シンコペーションの圧倒的な躍動感や緊張感、高揚感をしっかり感じながら聴いてみてください。

         

🎹モーツァルト「交響曲第25番 ト短調」

第1楽章は、いきなり激しいシンコペーションの連続で始まります。
シンコペーションによって生み出された疾走感や焦燥感が、短調の悲劇的な響きとなって
心を揺さぶります。

モーツァルト「交響曲第25番 ト短調」
指揮/ レナード・バーンスタイン ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
1988年10月ウィーン・楽友協会大ホール

       

この曲は、映画「アマデウス」の冒頭の
衝撃的なオープニングで使われています。

▼映画「アマデウス」(1984年 アメリカ)

モーツァルト(1756~1791 オーストリア)の天才的な音楽と壮絶な生涯を、
同じ時代に生きた宮廷音楽家サリエリの視点から描いた作品。
アカデミー賞8部門受賞。


この曲が作曲された頃、
音楽は貴族中心のものから、個性や独創性を主張するものへと変わっていく兆しが、
少しずつ表れ始めていました。
そのため、シンコペーションも積極的に用いられるようになっていました。

       

🎹ベートーヴェン「交響曲第9番 合唱」

第4楽章では、壮大なフィナーレに向かって、
その圧倒的なエネルギーを生み出すための
シンコペーションが、連続して用いられています。

途中の「行進曲風(alla Marcia)」の
ファゴットとコントラバスが打つシンコペーションのリズムから、
続くテノールのソロ、
次に、同じくテノールの男性合唱が、意気揚々とシンコペーションでの行進を歌い、
その後も、オーケストラが、次から次へとシンコペーションを連ね、
さらには sf(スフォルツァンド 特に強いアクセントをつけて)で、激しさを増していきます。
音楽は、緊張感で張り詰めていき、気持ちは高ぶっていきます。

続いて、
ソプラノ、アルト、テノール、バスの
4部合唱による「 歓喜の歌」の「主題」(※下に説明あり)が歌われる際、
連続していたシンコペーションが消えてなくなります。

すると、
これまでのシンコペーションによる緊張感が一気に開放され、
本来の、安定した、一定の規則的なリズムの流れで歌われる「主題」が、
光り輝くように歓喜に到達するのです。

       

ベートーヴェン「交響曲第9番 合唱」第4楽章
指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1986年9月 ベルリン・フィルハーモニー

動画は、ブログの説明文辺りから始まります。(9分22秒辺り)
是非、第4楽章の始めからもお聴きください。

                       

▼「歓喜の歌」の「主題」

シラー(ドイツ 詩人)の詩『喜びに寄す』を引用したもので、
合唱により歌われる第一主題のこと。

「Freude, schöner  Götterfunken・・・
(フロイデ シェーネル ゲッテルフンケン)・・・
歓喜よ、神々の美しき霊感よ・・・」

で始まる有名なフレーズです。

      

ベートーヴェンは、
内面の感情を表現する、斬新さと驚きを持つ曲を次々に作曲していきます。
それは、既存の枠におさまらないエネルギーにあふれた音楽で、
シンコペーションのエッセンスがたくさん散りばめられています。

      

♪ クラシック音楽における近代(19世紀末~20世紀始め)のシンコペーション

この頃は、
ジャズの前身であるラグタイムという
シンコペーションを主体としたリズム構成の音楽ジャンルが流行っていました。
クラシック音楽の作曲家たちが、
その斬新さに惹かれ、大きく影響を受けていました。

         

♬ クラシックと黒人音楽とのミックスによって生まれたラグタイム

前回のコラムでご紹介した
映画『スティング』の主題歌『エンターテイナー』は、
ピアノのために作曲されたラグタイムの曲です。

『エンターテイナー』の作曲者スコット・ジョプリン(1867-1917)は、
当初は、クラシック音楽のピアニスト・作曲家になることを目指していました。

そして後に、
ヨーロッパのクラシック音楽と、
アフリカ系アメリカ人のハーモニーやリズムとを結びつける音楽を追求するようになり、
「ラグタイム」という新しい音楽ジャンルが生まれました。
※ジョプリンの父は黒人、母はアフリカ系アメリカ人

ラグタイムはシンコペーションを多用し、
「リズムをあえて崩して遊んで楽しむ」ように作られています。
後に発展していったジャズのような即興性はなく、
クラシックと同じように、作曲も演奏も正確な楽譜により行われます。


この時代のクラシック音楽を代表する作曲家、
ドビュッシー、ラヴェル、ストラヴィンスキー、シュスターコヴィチ・・・が作曲した曲は、
ラグタイムの影響を強く受けて、ジャズを思い起こさせるものも多くなっています。

いくつかの曲をご紹介します。

🎹ドビュッシー「子供の領分」より「ゴリウォーグのケークウォーク」

ゴリウォーグ(黒人の人形)が、
アメリカで生まれたダンス音楽であるケリーウォークを、
軽快にひょうきんに踊っている様子をシンコペーションで表しています。 

ドビュッシー「子供の領分」より「ゴリウォーグのケークウォーク」
ドビュッシー自身による演奏です!1913年 是非、お聴きください。

       

🎹ガーシュイン「ラプソディー・イン・ブルー」

ラグタイムに影響を受けたガーシュインは、
ジャズとクラシックが融合した「シンフォニックジャズ」と呼ばれる音楽を作り出しました。

ガーシュイン「ラプソディー・イン・ブルー」
指揮&ピアノ/ レナード・バーンスタイン  ニューヨーク・フィルハーモニック 1976年
巨匠 バーンスタイン が、ピアノを弾きながら指揮します。是非、お聴きください。

     

🎹ラヴェル「ピアノ協奏曲 ト長調」

ジャズの要素であちらこちらを彩り、
リズミカルでユーモラスな上に洗練された優美さをまとっています。

ラヴェル「ピアノ協奏曲 ト長調」
ピアノ/マルタ・アルゲリッチ 
指揮/エマニュエル・クリヴィヌ フランス国立管弦楽団
2017年10月 ラジオ・フランス

   

🎼シンコペーションの圧倒的エネルギーを感じて、楽しみましょう!

シンコペーションの圧倒的な躍動感や緊張感、高揚感は、感じられたでしょうか。

ラグタイムやジャズのように、
シンコペーション主体で、始めから終わりまでウキウキワクワクドキドキするのもよし、

クラシックで、
一部効果的に「!!!」と気持ちを揺さぶられるのもよし、

ジャズとクラシックが融合された音楽で、
その間を行ったり来たりする揺れやユーモアを楽しむのもよし。

シンコペーションの圧倒的エネルギーを受け取って、おおいに感動してください!
当教室で、ご一緒に楽しみながら学びましょう!
 

今回のコラムにお付き合いいただき、
ありがとうございました。
次回のコラム『ちいさな感動 おおきな感動』も、よろしくお願いします。

梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪
 

絶大な躍動感を放つ源となっているシンコペーションのリズムについて、
その躍動感が生まれるわけと効果について、
詳しく知りたい方は、是非、前回のコラムをお読みください。

大阪府吹田市千里丘の音楽教室です。 幼児(3歳)からシニアの方まで、随時ご入会を受け付けています。 現在、個人レッスンによる「ピアノ」「声楽」「チェロ」「ソルフェージュ(視唱、聴音、楽典など)」の4科目を開講しており、初心者、経験者、趣味で楽しみたい方、また音楽大学・音楽高校を目指したい方など様々な生徒さんが在籍されています。 ご一緒に音楽を楽しみませんか。
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