🎼『カントリーロード』には、原曲があります。
こどもの歌のレッスンで取り上げた曲
『カントリーロード』は、
スタジオジブリ制作の大ヒットアニメ映画
『耳をすませば』(1995年公開) の挿入歌、エンディング主題歌です。
映画の主人公の中学3年生の女の子が
歌う曲として、原曲を日本語に変えた歌詞で歌われています。
この曲には、原曲があります。
アメリカのシンガーソングライター、ジョン・デンバー作曲の
『カントリーロード (Take Me Home,Country Roads) 』(1971年)です。
世界的なヒット作であるこの原曲は、
今なお名曲として、数多くのアーティストにカバーされ、愛されています。
映画『耳をすませば』の中では、オープニングで流れています。
どちらの曲も、それぞれに心地よく、澄んだ歌声が心に染み入ります。
日本語の歌詞の曲も、英語の原曲も、どちらも好き!
という人も多いのではないでしょうか。
🎼日本語の歌詞の曲と、英語の原曲の『カントリーロード』音楽を演奏するうえでの重要な要素の違い。
さて、この同じ曲である『カントリーロード』ですが、
日本語の歌詞の曲と、英語の原曲は、
同じメロディーを歌っているのに、
曲の印象が、かなり違って聞こえてきます。
日本語歌詞の『カントリーロード』の場合は、
「ゆったり、たっぷり、まったり、しっとり」とした感じに聞こえます。
英語歌詞の原曲『カントリーロード』の場合は、
「軽快、快活、躍動的、いきいき」とした感じに聞こえます。
同じメロディーを歌っているのに、
なぜ、聞こえてくる印象に違いがあるのでしょうか。
それは、音楽を演奏するうえでの重要な要素のうちのひとつが、
全く別の曲だとも言えるくらいに違うからです。
その要素とは、リズム感!!!です。
リズム感、といっても、
「リズム感がある、ない(良い、悪い)」ということではありません。
それぞれ歌っている人の国や人種によって、
「元々、体の中に根付いているリズム感」が
違うために、歌い方にも自然にそれが表れ、
同じ曲を歌った場合でも、かなり違った印象の曲になる、ということです。
🎼「元々、体の中に根付いているリズム感」とは
今回のコラムは、
この「元々、体の中に根付いているリズム感」について
お話していきます。
♪ アクセントが置かれている位置の違いについて
それぞれが、どのような歌い方になっているか、
次の点に注意して、もう一度、聴いてみてください。
☆日本語の歌詞と、英語の原曲とでは、
アクセントが置かれている位置に違いがあります!
▶アクセントとは 「音を強く演奏するところ」です。 この『カントリーロード』では、 「歌うときに意識を強く置くところ」として、説明していきます。
図を使って説明していきます。
☆ 日本語の歌詞の『カントリーロード』の場合
縦棒 (|) →拍と拍(1拍目と2拍目、2拍目と3拍め・・・)の区切りを表します。※小節線ではありません。
縦棒 (|)の次の文字→拍の表(おもて)にあたります。※後に解説あり
太文字→アクセントが置かれている位置をしめします。
拍の表にアクセントをきれいに合わせて拍子(リズム)をとっています。
▶拍の表とは 拍の始まりのリズムを感じるところ。 例:4分の4拍子の場合 「1と2と3と4と」とリズムを取った時の、「1、2、3、4」にあたるところ。
☆英語の歌詞の原曲の場合
拍の裏を意識して拍子(リズム)をとっています。
▶拍の裏とは
拍の表と、次の拍の表の間のこと。
例:4分の4拍子の場合
「1と2と3と4と」とリズムを取った時の、「と」にあたるところ。
「裏拍」とも言う。
♪ アクセントが置かれている位置(歌うときに意識を置く位置)の違いは、どうして表れるのでしょうか。
アクセントが置かれている位置(歌うときに意識を置く位置) の違いは、
リズムの取り方(カウントの仕方) に違いがあるからなのです。
わかりやすい例をあげてみます。
ボールを地面に突くとき、
皆さんは、どのようにカウントしますか?
ボールを自分の手から、
地面に向かって突いた瞬間(またはボールが地面にバウンドした瞬間)に合わせて、
1, 2, 3, 4 ・・・とカウントしませんか。
ところが、
アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどの国の人々 は、
ボールが地面にバウンドした後、
自分の手に戻ってきた瞬間に合わせて、
1, 2, 3, 4 ・・・とカウントするのです。
それぞれの国や人種ごとによって、
カウントの仕方(リズムの取り方)が違うことがわかりますね。
「自分のカウントの仕方(リズムの取り方)」が、
「元々、自分の体の中に根付いているリズム感」です!
♪ 無意識のうちに「元々、自分の体の中に根付いているリズム感」で生活しています。
上の例のように私たちは、
歌うとき、楽器を演奏するときに限らず、
日常的に様々な動作において、
無意識のうちに「元々、自分の体の中に根付いているリズム感」によって、
声を出したり、体を動かしたりしています。
普段は意識することないがので、
「元々、自分の体の中に根付いているリズム感」が
あること自体が新しい発見!ですね。
🎼それぞれの国や人種ごとによって、「元々、自分の体の中に根付いているリズム感」が違うのは、どうして?
では、
なぜ、それぞれの国や人種ごとによって、
「元々、自分の体の中に根付いているリズム感」が違うのでしょうか?
それは、
それぞれの国や人種の歴史的背景によって、
特有の文化が生まれ、
特有の言語、食文化、習慣が発生したように、
音楽にも、その国や人種特有の文化の特徴が表れるからです。
🌸 日本人のリズム感
日本人特有の文化は、
稲作中心の農耕民族としての暮らしを背景に、生まれたものです。
稲作では、稲を植え付ける、鎌を振り下ろす、
といった動作が重要なことになります。
すると自然に、その動作の瞬間にタイミングを合わせてリズムを取って、
作業をしていくことになります。
植えるときに、「よいしょ!」
鎌を振り下ろすときに「よいしょ!」となるのです。
これが、
拍の表にアクセントをきれいに合わせて
拍子(リズム)をとることにつながっています。
※拍の表:上に解説あり
この稲作のリズムで動くことの特徴は、
意識が常に、最初の動作にあり、
その動作は下の方向に向かうことです。
そうすると、どっしりとした安定感のあるリズム動作になり、身体が安定して、
仕事がはかどる、というわけです。
そして、その場合のリズムの数え方は、
「1,2,1,2・・・」の2拍子になります。
ですから日本で作曲された曲は、
稲作のリズム「1,2,1,2・・・」の2拍子を基本とした曲(4拍子含む)が
大多数を占めています。
昔から歌い継がれている童謡や、演歌も、
日本人のリズム感そのものの代表的な音楽です。
西洋の文化を取り入れて作曲されるようになる近代までは、
日本では、3拍子の曲は皆無!!!
なほど、作られていませんでした。
※日本人が初めて3拍子の曲を作曲したのは、1896 ( 明治29) 年だとされています。
日本人が、
ワルツなどの3拍子を演奏するのが苦手な人が多いのも、このような理由からなのです。
「元々、自分の体の中に根付いていない」3拍子ですから、
すんなり奏でられるようになるには、
繰り返し練習をする努力が必要になりますね。
🌏アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどの国の人々のリズム感
ではアメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどの国の人々の
特有の文化 には、どのような特徴があるのでしょうか。
これらの国々に共通している歴史的な背景は、
主に、狩りを生活の中心として暮らしてきた、狩猟民族、騎馬民族だということです。
狩りをするときには、
いつでも素早く動けるようにしておくことが重要になります。
獲物を追いかけたり、反対に襲われたら格闘するか、もしくは逃げなければならないので、
もたもたしてはいられません。
そのため、
いつも身軽に軽快に、
走ったり、後ろに下がったり、回りこんだり、跳ねたりと、
動き始めてからも、常に次に連続してつながる動作を意識しています。
そしてその動作は、どっしりと下に安定させるのではなく、
必要なスピードで動けるように、常に上の方向に向かいます。
これが、拍の裏を意識していることにつながっています。
※拍の裏:上に解説あり
狩りで馬に乗る場合も同じです。
馬は、歩くときは2拍子のリズムで歩き、
走るときは、3拍子のリズムで走ります。
3拍子で地面を軽快に蹴り上げて走る馬に乗っている人は、
馬と同じ3拍子のリズムで上に跳ね上げられます。
ワルツなどの3拍子のリズムは、
馬が走るリズムから生まれた、と言われています。
このように、それぞれの国や人種ごとの文化から生まれた
「体の中に根付いているリズム感」には、
大きな違いがあることがわかります。
🎼「軽快、快活、躍動的、いきいき」と歌いたい場合
日本人特有の稲作由来の2拍子のリズム感で歌うと、
「ゆったり、たっぷり、まったり、しっとり」とした感じになり、
落ち着いた安定感が出せるのが、強みです。
ですが残念ながら、苦手だとするところは、
「軽快、快活、躍動的、いきいき」と歌うことです。
元々、どっしりとしたリズム感が根付いている日本人にとっては、
とても難しいことなのです。
では、「軽快、快活、躍動的、いきいき」と歌いたい場合には、
狩猟民族、騎馬民族の人々が歌っているように、歌えば良いのです。
それは、常に、拍の裏も意識して歌うということになります。
※拍の裏:上に解説あり
(^^♪『カントリーロード』拍の裏を意識する歌い方レッスン
拍の表:カンで合わせた後
拍の裏:トリーも意識する
次の拍の表:ローで合わせる
(^^♪ レッスン ♪ 「カン」から「ロ」に向かって、声が下に落ちないように、 1音ずつきちんと音階を上るように意識します。 拍の裏の「トリー」もしっかり意識して上ります。 これだけで、軽快な感じになります!
拍の表:ローで合わせた後
拍の裏:ーと、のばしているときも意識する
(^^♪ レッスン ♪
「ロー」と声を出した後、のばしている間に声が下に落ちないように、
次の言葉「ド」まで、意識し続けます。
そのとき、意識を常に上の方向に向けると良いです。
自分のおでこか、頭から声が出ているイメージで、
そこから意識を下げないようにします。
(^^♪ レッスン ♪ 拍の裏を意識しないと、出した声はすぐに下の方向へ向かいます。 すると、重くどっしりとした感じに聞こえます。 元々、拍の裏を意識する習慣のない日本人は、この点に注意を向けて、 常に、意識を上へ上へ保つようにして歌うと良いです。 生き生きとした感じで、声をのばせます!
🎼日本の歌の良さも、それぞれの国や人種ごとの歌の良さも、両方とも知る。
日本人の、まったりしっとりしたリズム感は、
ほっこりゆったりしていて、
歌っていても、聴いていても、心地よいものです。
皆さんも、
「元々、自分の体の中に根付いているリズム感」を意識しながら、
音楽を聴いたり、演奏したりしてみてください。
また、それぞれの国や人種ごとの様々な音楽のことも知り、
その良さを感じながら学んでいくと、
音楽がより奥深く、楽しく感じられます。
音楽は、特別なことではなく、
長い歴史の中の人々の営みの表れなのです。
今回のコラムにもお付き合いいただき、
ありがとうございました。
次回のコラム『ちいさな感動おおきな感動』も
よろしくお願いします。
梅谷音楽学院 講師 IKUKO KUBO (^^♪